とさっ子タウンの夏
こどもたちに「社会やまちづくりに興味を持ってほしい」「高知を好きになってほしい」という思いから始まった、夏のイベント「とさっ子タウン」。今回、その運営のサポート役たちにせまる。
夏休みに現れる こどもが主役の 架空のまち
平成21年に始まった「とさっ子タウン」は、夏休みの2日間だけ現れる「架空のまち」。「市民」になると、まちのハローワークで仕事を探す、約50種の仕事場で働く、お給料をもらう、納税する、買い物する、遊ぶ、食べる、学ぶ、友達をつくる、投票する、市長や議員になって議会で話し合うなど、多様な体験をしながら社会の仕組みを知ることができる。小学4年生から中学3年生までの市民の活動をサポートするのは、約100人の学生ボランティアをはじめ、高校生・大学生・社会人で構成される約80人もの実行委員たち。県内のさまざまな企業や団体、専門家も協力している。
サポート役になって 初めて見えてくること
とさっ子タウンの市民をサポートする学生ボランティアには、とさっ子市民の経験があるメンバーも多い。今回、取材に応えてくれた高校生のボランティアの3名も、みな市民だったという。「とさっ子タウンでまちづくりの面白さや楽しさを知った」という長野さ んは、「もっともっと関わりたくて、学生ボランティアをしてます。大学生になったら、実行委員会に入りたい」と言う。会場で市民の活動をサポートする島本さんも「支える側って楽しい!」と笑う。市民だった当時、とさっ子タウンで雑貨店を起業した経験のある岩本さんは、「こどもが主役なので、自分は裏方として何ができるか考えますね。この経験は実際の社会に出てからも役立ちそう」と話す。とさっ子タウンは、学生ボランティアたちにとっても、貴重な社会経験を積む機会になっているのだ。
意欲ある若者を 経験豊かな 大人が支える
このように高校生や大学生といった若者も活躍しているとさっ子タウンだが、実は歴代にわたって実行委員長を務めてきたのは大学生。今年から実行委員長に就任した尾木さんも、現在大学1年生だ。「小学5年生の頃からとさっ子タウンに来ています。『裏方とし て参加してみたいな』と感じて、高校生になってからは実行委員として活動してきました」と話す。「まちでの過ごし方やこどもの思いなど、とさっ子市民だったからこそわかることを主張したい」という思いを強く持っているという。実行委員会の若者たちを支えているのは、それぞれの場所でまちづくりに取り組む、経験豊かな大人たち。尾木さんは「今はとにかく楽しくて、とさっ子タウンで活動しています。まだ大学1年生なので、ここでいろいろな交流や経験を積んでいきたい」と語ってくれた。
『とさっ子タウン』元市民のいま
とさっ子タウンの市民だったこどもは、 実際の社会に出て、どんなふうに活躍しているんだろう。 実行委員として活動する社会人のメンバーに、 当時の体験や思い出、現在の思いを聞いた。
高知で働く自分の姿が想像できた瞬間
当時は毎年のようにとさっ子タウンに参加していた松本さん。「改めて振り返ってみると、今の自分につながる体験がたくさんありましたね」と話す。現在は地元の銀行で働くが「それこそ銀行の仕事も体験してて。とさっ子タウンでのいろいろな経験が『高知で働くこともいいな』と思えた一番のきっかけです」。とさっ子タウンで見た大人たちは「高知にいたらできることがこんなにある!」と感じられた存在。今度は自分がそうなりたいと意気込む。
こどもの発想で市長になった経験が生きる
片岡さんは、初参加のとさっ子タウンで市長選に立候補。「みんなの給料を上げます!」という公約を掲げて見事当選したが、市長としての仕事は想像以上の苦労があった。「給料が上がっても税収は上がらず、まちの公共サービスも悪くなった。結果的に不評でしたね」。それから3年にわたって市長を務める中で、税収確保の工夫を行い、責任感を持ってまちづくりに取り組んだ。この春から東京で会社員として働きながらも、実行委員としての関わりは継続している。
コラム
真夏の高知で開催が続くとさっ子タウン。これまで参加した市民の数は延べ4000人にも上るという。現在では、日本全国から官民問わず視察が来るほど注目を集めているが、そもそもはドイツで隔年開催されている「ミニ・ミュンヘン」を参考に誕生した。 毎年の運営を支える実行委員たちは、およそ80名。合言葉は「こどものチカラを信じよう」だ。実行委員会では、こどもたちがいかに自主的に、主体性を持って活動できるまちにするか、その仕組みを一年かけて話し合い、作り上げている。新しい時代に新しい発想で取り組み、道を切り開いていく「未来の土佐人」が数多く育っていくことを願っている。