「誰かのために何かしたい」。高知人らしい、おもてなしの心が詰まった愛に溢れるお接待の様子をお届け。
最御崎寺(ほつみさきじ)
お遍路さんの前途を祈る
ユニークな柏餅のお接待
「どうぞ、お接待を受けてください」と声をかけているのは、室戸市の第24番札所「最御崎寺(ほつみさきじ)」の婦人会の皆さん。弘法大師が生まれた6月15日に合わせて例年開催している「青葉祭」で、お接待を行っている。お遍路さんに差し出されるのは、伝統の柏餅。婦人会の島田郁子さんは「柏餅のお接待は、半世紀にわたって続いています。その由来は諸説ありますが、室戸岬は弘法大師が開眼された地ですし、子どもの幸せな成長を願う『端午の節句』の風習に倣って柏餅を手作りすることで、弘法大師に対する感謝を表現したと聞いています」と話す。子どもの安泰を願うようにお遍路さんの前途を祈る、柏餅のお接待。思わぬ柏餅に驚き、「甘いもので元気が出ます」と笑う、お遍路さんの子どものような笑顔も印象的だ。
お遍路さんの安泰を願って手作りされる柏餅。餅を包む柏の葉も、地域の里山に自生している木から摘んでいるという。
高知県最初の札所である最御崎寺。前番の札所からは80キロの過酷な海岸線が続くが、中途には弘法大師ゆかりの「御厨人窟(みくろど)」もある。
松本大師堂(まつもとだいしどう)
毎月21日、弘法大師の
月命日に行われるお接待
第28番札所「大日寺(だいにちじ)」と第29番札所「国分寺」の中間地点にある「松本大師堂」。元々は江戸時代に造られた建物があったが老朽化が進み、平成20年に地元住民からの浄財により復興した。その時から続いているのが毎月21日のお接待。地域の方が手作りの料理やお菓子を持ち寄り、賑やかにお遍路さんをもてなしている。「誰に強制されることもなく、21日になれば自然と人が集まってくるんです。皆おもてなしが大好きですから」と依光栄さん。そして僧侶の小笠原謙峰さんは「お大師様はいつも側で見てくれています。何事にも感謝の気持ちを忘れずに。お接待はそんな気持ちの表れのひとつです」と話してくれた。人々のために生きた弘法大師のように「誰かのために」と思うそれぞれの温かい気持ちこそ、このおもてなしが16年も続く何よりの秘訣である。
テーブルには手作りのドーナツ、寿司、果物、ケーキなどが並び、訪れたお遍路さんは皆お腹をいっぱいにして次の札所に向かうのだそう。
お接待の日は僧侶の小笠原さんによる法話の時間も。内容は、その時期に合わせたものや、相談事にまつわるものまでさまざま。
雪壽庵(ゆきじゅあん)
足摺岬に根付く
お遍路とお接待の文化
第38番札所「金剛福寺(こんごうふくじ)」のある足摺岬の先端から、岬の西側へ約4キロ。松尾地区と呼ばれる入江の集落の一角に、接待所「雪壽庵」はある。管理しているのは、お遍路の経験もある小説家の有田久哉さん。お遍路を題材にした小説を執筆していたことや、過去に自身がお接待を受けたことをきっかけに、7年前に接待所を開設した。近年、緑内障を患いながらも、地域の方々と協力して、訪れるお遍路さんにお菓子と飲み物を提供したり、絵はがきや地元の方が縫ってくれた巾着袋などをプレゼントしている。お見送りの際に「へんろ道は祈りの道。ぜひゆっくり歩いてあげてください」と、お伝えするのが有田さんのモットーで、一帯ではお遍路さんが安心して旅を続けられるよう、地域の方々が協力して、遍路道の整備や清掃活動を行っている。
地域の方々が提供してくれた甘いお菓子と、夏は冷たい飲み物、冬は温かい飲み物が、お遍路さんの疲れを癒やしてくれる。
有田さんがお遍路の最中に執筆された遍路小説。豊かな風景描写を織り交ぜながら、人々との出会いをやわらかに描く。