特集 メタルの星

高知は農業・林業・漁業が盛んで、石灰や打ち刃物、造船など関連する産業が栄えてきた。
時代の変化とともに姿を変えている製造業だが、今も町工場で金属に向き合い、
希望を持ち、ものづくりに情熱を注ぐ若者たちがいる。

鉄のにおいに導かれ――20代で鉄工所を起業

第十忍さん(36)は、小さい頃、(株)垣内に勤める父について鉄工所に行くのが好きだった。鉄と火にまみれて働く人が輝いて見えた。小学校に上がる前、祖父にもらったラジカセを分解した。なんで音が鳴るのか、その構造を目で見て確かめたい。「車でもラジコンでも、鉄を使うちゅうもんにすっごい興味があった。仕組みがうんと気になるんよ」。分解しては組み立てての繰り返しをするうちに、"もの"をつくる魅力に取り憑かれた。夜間高校に通いながら鉄工所に勤務し、28歳で起業した。
 溶接をする前に、図面を見て、鉄の材料を組み立て、形づくる。そして曲がったり縮んだりすることを予測して仮止めする。「図面どおりにバシっと決まるとうれしいねえ」。
 土木建築現場で活躍する杭打ち機やクレーンなどの重要部分を請け負う第十さん。「クレーンが倒れたというニュースを聞くと、うちの部品が使われてないかとヒヤっとする」と言う。
 金属加工の分野は、建設機械に限らず、船、車、橋など、"人の命"にかかわるものが多く、小さなミスも許されない。なおかつ、作業中に自らがケガをする危険にもさらされている。
 そうしたリスクを背負いながら、ジェットコースターやメリーゴーランドなど世界の遊具や舞台装置の駆動部をつくり、人々に楽しさを提供している人がいる。

困難なものほど、わくわくする――歌舞伎座の心臓部を担う

「図面を見たら、普通は怖くて断るでしょうね」。(有)クリエイト・テーマ工場長の徳島弘晃さん(38)。2013年4月にこけら落としされる東京銀座の新歌舞伎座。直径18m、高さ16mの国内最大の廻り舞台の駆動部を請け負った。
 717本のピンを78.5mm間隔で正確に溶接するという難しい仕事だった。駆動部のギアは精度が高くないと滑らかに回転しない。直径18mの舞台を1周まわして、誤差が±2.5mm。極限まで狂いをなくした。
 「歴史的な建造物をつくったというのは、自慢であり、自信になっていますね」。そんな誇りをこめて、国内外を問わず全ての製品にMade in Japanを焼き付ける。
 プラモデルの全盛期だった小学生時代。ガンダムや宇宙戦艦ヤマトなど、プラモデルにのめり込んだ。せっかくきれいに組み立てたのに、色を塗る時に失敗するという苦い思い出もある。
 「笑われるかもしれんけど、自家発電機とか発明してみたい。一つの電球の光を反射させて、小さなエネルギーを大きくさせるような……」。仕事を終えて、家に帰ってビールを飲むと、アイデアが湧きあがってくる。

 ものづくりは、一人の職人技だけでは成り立たない。材料の手配から切断、加工、組立など、様々な工程に人がいて、チームワークが必要だ。そして、出口で品質を守っている人がいる。

強く、精微なものは、美しい――女性が活躍する鉄工所

吉良智沙さん(31)。「最初は創業した兄をバイト感覚で手伝いはじめたけど、抜けれんなった」。第十工業の事務をしながら、溶接後に部品を磨く「ケレン」という仕上げ工程を担う。
 飛び散った小さな金属の粒をヘラで取り除き、余分な溶接部をグラインダーで研磨する。微妙な歪みを修正し、最終製品に仕上げる重要な工程を、全て手作業で行う。初めは、鉄を削る時に出る火花が怖かったが、今では顔に散っても平気。いかに早く、美しく仕上げるのかが、腕の見せどころだ。最終検査に来た取引先の人が完璧な仕上がりに驚きの声をあげた時、静かにガッツポーズした。「見た目にこだわる方なんで」。ケレンは趣味のお菓子づくりと共通する、と微笑む。
 「いつか高知にスカイツリーでも作りたいねえ」と隣で兄が言う。仲間の力を結集して、みんなをあっと驚かせたい。
 どんなに大きなスカイツリーも一つの部品から始まる。いくつもの工程を経て、組み立てていくと、目指していたものが眼前に姿を現す。
 自分たちの手でつくりだしたものが、人々の暮らしに役立っていく。そんな、ものづくりに魅了された若者たち。今も、自ら光を放つ新しい星が生まれている。