高知県の歴史に触れる県史特集「地元の文化施設が 地域の歴史を紡ぐ」

今回のテーマは、地域の博物館。 高知県初の私設図書館「川田文庫」をルーツとして、 田中光顕や牧野富太郎を輩出した地元の歴史を紹介する 佐川町の青山文庫を訪ね、高知県史との関わりを探る。


地域で紡がれる歴史が
県史編さんの足掛かりに

青山文庫では、牧野博士の生誕160年を記念した特別展「植物学者・牧野富太郎の歩み」を開催している。「富太郎が生まれたまち佐川」「植物学者への道」「富太郎の功績」の3部構成で、貴重な歴史資料から牧野博士の歩みを辿る展示内容は、県史編さんの観点からも大変価値が高いものとなっている。  青山文庫の学芸員・藤田有紀さんは「牧野博士の経歴や功績を解き明かすと同時に、佐川という土地との関わり、藩政期から現在の高知県へと移り変わっていく歴史的な背景、社会システムの変化といった着眼点も加え、牧野博士をよりフラットな視点で描いている」と、今回の展示の見どころを語ってくれた。  青山文庫以外にも、たくさんの文化施設が地域の歴史を後世に伝えている。そして、県史の編さんには、そのような地域の歴史に精通した施設との連携が欠かせない。地域に暮らす人々が今日まで歩んできた歴史の数々が、高知県の歴史をひもとく足掛かりになるのだ。

植物標本をはじめ、晩年に愛用した絵具や洋服、牧野博士の祖父直筆の和歌など、地元の博物館ならではの展示物が並ぶ。

牧野博士を育んだ
地元の文教の精神

「文教のまち」佐川のシンボルとして、現存する玄関部分を中心に当時の姿を再現した「名教館」。佐川の領主であった深尾氏が明和9(1772)年に一族の子供たちを教育する家塾として創設し、約30年後に深尾氏の家臣を教育する郷校に、明 治維新後には一般庶民にも門戸が開かれ、少年時代の牧野博士もここで西洋の最先端の学問を学んでいた。こうした環境が「植物分類学の父」牧野富太郎を育んだのだ。  県史の編さんにおいても、地域の文化や歴史がどのように生まれたのかを考え、未来の人材育成に寄与していくことが大きな意義となっていく。

土佐人の情熱が作る
新しい高知県史

高知県史の自然部会で副部会長を務める、東京大学名誉教授の邑田仁さんは、「牧野博士の功績もあり、高知県の植物誌は既に多くの分野でレベルの高い研究成果がまとまっている。その一方で、花が咲かない植物や昆虫の研究はまだまだこれからといった状況。まずは自 然史研究の基礎となる標本採集から、県民の皆さんに協力を仰いでいきたい」と話す。  新しい県史の編さんにも、牧野博士のような情熱的な土佐人の活躍が期待されている。

                  自然部会 副部会長 邑田仁さん

         佐川町上町地区にある名教館。現在の文教のまちを見つめている。