高知県の歴史に触れる県史特集「漁師町の営みに文化を見つける」

今回のテーマは、漁師町の民俗調査。
高知県史の民俗部会メンバーが中土佐町を訪れ、聞き取り調査を中心に、資料収集を行った。
漁師町の日常を通じて、地域の歴史が見えてくる。

カツオが結ぶ海の交流。
全国で一目置かれる、土佐の漁師たち。

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新しい高知県史の編さんに向けて、県内各地で現地調査が始まっている。令和4年の秋には、海に山に多様な民俗と文化を擁する中土佐町にて、民俗部会が調査を実施。カツオの一本釣りで有名な漁師町、中土佐町の久礼にも、日本のカツオ漁業をめぐる民俗学の第一人者、川島秀一さんが訪れた。
 
川島さんが生まれた宮城県の気仙沼市は、生鮮カツオの水揚げ量で日本一を誇る港町。高知から遠く隔たった場所に思えるが、実は子どもの頃から高知の漁船をよく目にしていたと言う。「以前に研究で中土佐町を訪れたとき、漁師さんに『宮城から来ました』と言ったら、すぐに『気仙沼か!?』と聞かれて。気仙沼の飲み屋街だとか、いろんな話で盛り上がりましたよ」。
 
遠く離れた港町が海でつながっている。そこには、全国の漁師たちが交流する、海のネットワークがある。三陸でも「土佐の漁師は、カツオの釣り方が美しい」と評されているのだ。
 
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川島さんが同行取材した移動販売の様子

 

漁師町の生活を探るため
取材に訪れたのは、
移動販売の魚屋さん。

今回の調査で川島さんが訪れた取材先の一つが、久礼で移動販売を営む魚屋さん。軽トラックの助手席に乗り込み、仕事の現場に同行した。そこには、「漁業の文化を探るには、漁業の周辺も含めた地域全体の営みを見なければ」という川島さんの狙い通り、水産物を通じて生き生きと交わされる地域の交流があった。

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「地域住民が行く先々で待っているんです。魚を買うだけじゃなく、いろいろな世間話もしています。地元で魚がよく食べられているのは、こういった日常の風景もあってのことだと思いましたね」。

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漁業をはじめ、農業や商工業、信仰祭礼、民俗芸能など、中土佐町の多様な民俗や文化について、資料収集を行った。

地域の日常を残す、
県史に託された大切な役割。

民俗部会のメンバーが合同で行った、今回の中土佐町の調査。地域住民への聞き取り等の調査は県内各地で続けられ、最終的に高知県史の民俗編として編さんされる。「どんな民俗編にしたいか」という問いに川島さんは、「民俗学の役割は、今目の前で営まれている人々の生活をすくい上げ、残していくこと。この人は対象ではない、ということはないんです。県民のみなさんが日常的に続けている、ありのままの生活を教えていただきたい」と答えた。
 
調査はまだ始まったばかり。地域で暮らす人々の生活や文化を追いかけ、高知県の歴史を紐解いていく。
 
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