遍路道中にあるおやつ【よしだや羊羹】

四国はもとより、ここ高知でも昔から続いてきたお遍路さんへの「お接待」。 エネルギー源となるあまいお菓子を振る舞ったり、労いの言葉をかけたり、 そこにあるのはお遍路さんの無事を願う人々の温かい気持ち。 今回はお遍路さんにまつわる甘味や人にスポットを当て、 甘味を通して見えてきた、おもてなしの文化をひもとく。


よしだや羊羹

口にした人を笑顔にする羊羹

ひと口で食べやすい形に

  食べやすいひと口サイズのため、「歩きながらのエネルギー補給に嬉しい」とお遍路さんが話すのは、「おちょぼ羊羹」。四万十町の「よしだや羊羹」の名物で、同町の第37番札所「岩本寺」でも、長年お遍路さんのお接待に出されてきた。  

 よしだや羊羹の始まりは、戦後、初代の吉田伝太郎(でんたろう)さんが「甘い食べ物で地元住民を笑顔にできたら」と、当時は貴重な砂糖を使って和菓子を作り始めたことから。昭和56年頃には、二代目が「昔風あずき羊羹」を商品化。小豆の粒をできるだけ崩さない、あんこの風味が立つ名品として広く愛されたが、岩本寺でもこの羊羹を、お遍路さんが食べやすいようカットして提供していたのだとか。当時の店舗が岩本寺の界隈にあったこともあり、互いに親交が深かったため、二代目がさらに食べやすい個包装にして、今の「おちょぼ羊羹」を生み出したという。三代目の猪野文啓さんは「私たちは『おちょぼ』を『ひと口』という意味で解釈し、羊羹を食べることで溢れる笑顔をイメージしています。お遍路さんにもたくさんの方にも、羊羹を口にして笑ってもらいたいですね」と話してくれた。

よしだや羊羹-猪野さん
よしだや羊羹 三代目 猪野 文啓(いの ふみひろ)さん

猪野さん「地元の方やお遍路さんには、甘さを控えた、やさしい風味の羊羹として親しんでいただいておりますので、先代が作り上げたよしだや羊羹の製造方法と味わいを、これからも守っていきたいです。」

よしだや羊羹-外観

よしだや羊羹の店舗は、遍路道沿いにある。岩本寺で疲れを癒やしたお遍路さんが、早朝に店前を歩いて行くという。

よしだや羊羹

添加物・防腐剤を使っていない羊羹。時間と共に乾燥すると、表面の砂糖がシャリッとした歯応えになることも、おちょぼ羊羹の特徴だ。

よしだや羊羹-マップ