屋根も壁もない無限の空間に、毎日、毎分、毎秒変わる風景。そんな世界で唯一ここにしかない「砂浜美術館」に魅せられ、そしてこの「考え方」を「Tシャツアート展」にのせて海外にまで持ち出した、一人の女性が今回の物語の主人公。
自分の中にストンと落ちた 「砂浜美術館」との出会い
今年も「ひらひら」の季節がやって来る。31回目の開催を迎える「Tシャツアート展」は、高知県内では毎年5月の恒例イベントとして定着して久しいが、実は日本国内はもとより、海外でも開催されていることをご存知だろうか。その一番最初のキッカケを作った人こそ、写真のTシャツ姿の女性、西村優美さん。元々は大阪府の出身で、今では「Tシャツアート展」、そしてそれを主催する「砂浜美術館」になくてはならない存在となった人。西村さんと「砂浜美術館」の出会いは今から15年前の2004年。調べ物中にたまたま「砂浜美術館」のHPにたどり着き、「私たちの町には美術館がありません。美しい砂浜が美術館です」そんな一文から始まるコンセプト文に心を打たれた。それから2006年には「Tシャツアート展」にボランティアとして参加し、その後は青年海外協力隊としてモンゴルへ。漠然と「モンゴルの草原でひらひらしたい」という想いを胸に、日本を飛び立った。
砂浜美術館が海を越え モンゴルの草原へ
モンゴルでは、子どもたちに図画工作を教えていた西村さん。そんな中、現地でアルタンさんというモンゴル人と出会った。そして「アートの力を借りて、こんなにも美しい場所に自分たちがいるということを認識してほしい」という、まさに「砂浜美術館」の信念にも近い想いを共有し、モンゴルでの「Tシャツアート展」に向けて本格的に動き出す。この「考え方」が海外に広がることを、関係する人たちも喜び賛同してくれた。「Tシャツアート展を生み出し、継続させてきたスタッフや創始メンバー、梅原真さんもとにかく面白がってくれたんです。実績のない未知のものに可能性を感じ、共に夢を共有してくれたからこそ、私も実現に向けて突き進むことができました」。
そして2010年、その年黒潮町で展示された1000枚を超えるTシャツと、現地の人が手がけたTシャツ計1400枚を、遂にモンゴルの広大な草原にひらひらさせた。草原に手掘りで杭を立て、炎天下のなか延々とTシャツ干し… 、それはそれは大変な作業だったが、これを経て誕生した「草原美術館」は次なる展開へとストーリーを繋いでいく。
地域と世界、人々をつなぐ 「ひらひら」
「草原美術館」での「ひらひら」は「砂浜美術館」が枠のない考え方の美術館であること、さらに「砂浜だけじゃない」というメッセージにもなり、「私たちの町でも開催したい」という声が各地から届くように。そんな声に応えるべくスタートしたのが「ひらひらフレンドシップ」。5月に「砂浜美術館」に集合したTシャツで、各地に新しいひらひらの風景を創るもので、これまで気仙沼、富山、野母崎、有田、ガーナ、ケニア、ベリーズ、トンガ…、などその地を愛し、そこをTシャツのひらひらで輝かせたいと願う気持ちのもと国内外で実現されてきた。また、そんなグローバルな出来事は、ローカルの子どもたちとも楽しんでおり、黒潮町の小学校では「Tシャツアート展の授業」を実施。自分たちのTシャツから地域と世界を楽しく学んでいる。「一過性のものではなく、続けていくこと、続いていくものに意味があると思うんです。今では子ども達が今年はどこの国に行くの? と砂浜と世界の繋がりを楽しみにしています。私自身はもちろん、みんなでシナリオのない展開を面白がっています!」。今年もまた、人と、地域と、世界までもつなぐ「ひらひら」の季節がやってくる。はじまりはここ、黒潮町から。
FM高知で毎週金曜放送中のラジオ「MYスタイル すっぴんトーク」に出演した際のスタジオの様子。西村さんの出演回は、3/22、29の2週に渡ってオンエア。