小泉斉さん 〜 プライムトーク 〜

 古くより、物入れ、楽器、仮面、御守りなど、世界中でいろいろな用途に用いられてきたひょうたん。「最古の栽培植物」とも言われており、種類や形、大きさは実にさまざま。そんなひょうたんに魅せられ、人生をかけて向き合っている一人の職人の物語。

2つと同じものがない 唯一無二のひょうたんラン

灯りを灯しても灯さずとも、この美しさは格別。緻密な模様と、そこに施されたガラスやビーズの装飾は2つと同じものが無い。

 一度見たら忘れられない。それほどまでに美しい「Hyotan MAGIC」のひょうたんランプ。ひょうたんの大きさ、形、そこに描かれるデザインは2つと同じものがなく、オンリーワンの特別感も心を惹きつけられる要素のひとつ。これら全てを手がけているのが、小泉斉さん。四万十市在住のひょうたんランプ職人で、自宅の工房には作りかけのランプやそれに使う道具、材料がそこかしこに溢れていた。素材となるひょうたんは自らの手で、しかも無農薬で育てているというから驚きだ。「長らく使っていない畑を友人から借りて、今から4年ほど前より本格的にひょうたんの自家栽培を始めました。土地を汚したくないという想いから、無農薬にこだわってます」。そんな小泉さん、実は生まれは東京で、今から約7年前に四万十市へ移住。現在はひょうたんランプ職人として活動しているが、これまで生きてきた中で2回、人生観を大きく変えられる出来事に直面したという。そのひとつが学生の頃に訪れたネパールでの体験。「日本と比べてあまりの貧困の差にショックを受けて、自分も何かできないかと模索しました」。

もう一つの大きな出来事 高知への移住

収穫されたばかりのひょうたん。畑の向こうはすぐ海で、大自然に面した場所で無農薬でのびのびと育てられている。

 その結果たどり着いた答えがネパールでゲストハウスの経営。日本にいながらオーナーとして出資を続け、たまにネパールを行き来するような生活が約4年続いた。「正直一銭も儲けなかったけど(笑)、後悔はしてません。今でもネパールは僕の中でとても大切な場所です」。またちょうどその頃からひょうたんランプ制作も本格的に手がけるように。ひょうたんとの出会いは学生時代に知人宅で見たひょうたんスピーカーに心奪われたことに始まるが、ひょうたんランプに辿りついたのは些細なきっかけだった。「ゲストハウスのオーナーをやめて日本でカフェの店長をしていた時、店内に飾ってあった自作のひょうたんスピーカーを見たお客さんからランプも作ってみたら? と言われて。それから制作するようになりました」。そんな生活が長らく続いて久しくなった頃、もう一つの大きな出来事が起こる。2011年東日本大震災。「人生観が変わったと同時に、一度きりの人生を後悔したくないと強く思いました」。そしてその夏、東京での生活や今後のことを悩んでいたこともあり、気晴らしにと訪れたのが四万十市だった。「五感で感じる全てのものがしっくりきて、ひょうたんランプを作るならここだと直感しました」。

ここでしか作れないもの 自分にしか作れないもの

自宅の工房にて、下描きをしたひょうたんに機械で模様を入れていく作業。桐やドリルなどを使い分けながら慎重に。

 そうして震災の翌年、2012年に四万十市へやって来た小泉さん。これまでは別の仕事をしながら趣味でひょうたんランプを作ってきたが、今後は生きていくための仕事にするとの決意を胸に。「高知に来てから少し作風が変わったかもしれません。波のような模様や、水のような色、それとなく自然をイメージするようなデザインが増えましたね」。そんな高知エッセンスが加えられたひょうたんランプは、県内で行われるイベントに参加すれば写真を撮る人があとを絶たず、またワークショップを開けばひとたび満員御礼と、人気と認知は着実に広がっている。ひょうたんランプを高知に根付かせ、材料となるひょうたんも自らの手で作るという「メイドイン高知」へのこだわりは今後も変わらない。「まずは四万十産の綺麗なひょうたんを作ること。そしてそのひょうたんそのものを販売したり、四万十産のひょうたんランプキットを作ってみたり、ここにしかないもので、僕にしかできないことを続けていきたいと思います。そしていつかはネパールにひょうたんランプファクトリーを造る! これが僕の夢なんです」。


FM高知で毎週金曜放送中のラジオ「プライムトーク」に出演した際のスタジオの様子。小泉さんの出演回は6/28、7/5の2週に渡ってオンエア。