つないでつむいで 県史編さん室

高知県史(自治体史)とは?

高知県について伝え残されたさまざまな資料を調査し、本県の歴史を詳細に記したもの。郷土の歴史を知る、大切な手がかりだ。

御幣が飾られ、供物が供えられた「三階棚」の前で「三十三度礼拝神楽」の儀式を行う太夫。五色のシデで飾られた「綾笠(あやがさ)」を被る。綾笠の裏には、五芒星(ごぼうせい)と九字(くじ)を書いたものもある。

【右下写真】棚の周りの注連縄に飾られた「ヒナゴの幣」【左下写真】祈祷殿の近くの集落「影仙頭(かげせんとう)」の風景

土佐・物部「いざなぎ流」の 世界

香美市物部(ものべ)地域には、「いざなぎ流」と呼ばれる民間信仰が伝承されている。病気治しの祈祷(きとう)をしたり、失せ物や吉凶を占ったりなどといった様々な技法を、「太夫(たゆう)」と呼ばれる地域の宗教者が伝えてきた。  いざなぎ流の儀式は、神々の由来を物語る「祭文(さいもん)」を唱え、神々をあらわす数多くの「御幣(ごへい)」を紙で作って祭るのが特徴。「式王子(しきおうじ)」や「反閉(へんばい)」など陰陽道(おんみょうどう)ゆかりの呪術を用いることでも知られている。高知県史編さん民俗部会では令和6年10月17日、いざなぎ流の大祭である「日月祭(にちげつさい)」の調査に香美市物部町押谷(おすだに)を訪れた。

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いざなぎ流「日月祭」

今年8年ぶりの開催となる日月祭は、月の出を拝む行事。祭場となる祈祷殿(きとうでん)の前に祭壇が作られ注連縄(しめなわ)が張られ、祭りの舞台を悪霊から守る「ヒナゴの幣」が飾られていた。  日没から儀式が開始。静かな山中は、太夫の祈りや僧侶の読経の声、そして太鼓とホラ貝の音に包まれ、月の神を迎える異空間となった。そんな中、太夫達は数時間にわたり、幣を持って繰り返し礼拝を行った。  今回は、修行を積んできた弟子に太夫としての免許を与える「許し」の儀式も実施。許しを受ける際、新たな太夫は神聖な米粒を受け取り、「ますます精進いたす」と答えていた。  当日はあいにくの曇りだったが、夜11時頃におぼろ月が浮かんだ。時を同じくして祈祷殿の中では荒ぶる神を鎮める「荒神鎮め」の儀式が行われ、日月祭は幕を閉じた。  高知には、いざなぎ流のような民間信仰がまだ確かに息づいている。高知県史ではこうした暮らしの中の信仰も記録していく。

第十回 馬路村魚梁瀬
史料が語るもの語

県史編さん室では、博物館や公的機関に所蔵される史料だけでなく、地域に残る史料の調査も行っている。馬路村魚梁瀬(やなせ)で大切に伝えられてきた「門脇家文書」の調査では、江戸時代における土佐藩の山林管理の様子が明らかになった。

木材注文書(大阪の鰹座橋(かつおざばし)に使うことが書かれる)

木箱から文書を1点ずつ取り出し確認する

江戸時代の土佐の山林管理と魚梁瀬・門脇家

令和6年4月、現地を訪問し資料を確認。持ち主の許可を得て編さん室で借り受け、調査を実施した。約4か月かけて326点ある史料の目録作成、画像撮影と近世部会による内容確認を行った。  調査の結果、門脇家が江戸時代に土佐藩の御山番(おやまばん)などを勤めていたことなど、その由緒が分かった。ほかにも木材に関する記録が多く残り、木材の注文、他国から木を盗む人がいるとの知らせなど当時の山の生活の様子がうかがえ、土佐国内の注文だけでなく、今も大阪市西区に地名が残る「鰹座橋(かつおざばし)」という橋に使用する木材の注文などもあり、魚梁瀬から切り出された木材がどのような場所で使われていたかを知ることができた。  高知県は全国一の森林率84%を誇る。現代につづく森林がどのように受け継がれてきたのか、森林に関わる歴史の解明は、新しい『高知県史』にとって重要なテーマの一つ。今後も継続して調査を行っていく。