高知県の歴史に触れる県史特集「地域の歴史が 記録される映画」

今回のテーマは、暮らしを映像に記録すること。 いの町吾北地区の文化を継承するため 奔走を続けている田岡重雄さんに 村が映画の舞台になった話題を聞いた。


県史特集-写真01

田岡さんら「上東(じょうとう)を愛する会」の活動拠点である「いの町立上東小学校(平成13年3月休校)」の講堂。ドラム缶楽器スティールパンや健康体操などを楽しみながら、集落の維持、地域活性化に取り組んでいる。

一冊の自治体の記録集から

村が映画の舞台に 伝承や風習のちから

地域の歴史を後世に伝える一冊の記録集が、なんとその地域を映画の舞台にしてしまうきっかけになった。そんな驚きの展開があったのは、今年で合併二十年を迎えるいの町吾北(ごほく)地区。かつての旧吾北村の暮らしを描いた記録集「ごほく 樹と水物語」が生んだドラマだ。今回お話を伺った田岡重雄さんは、「ごほく 樹と水物語」の発行に尽力した人物。長年にわたっていの町で暮らし、吾北地区の文化を継承する活動を続けている。  「当時は、散らばっていた吾北村の伝聞をしっかり見直して、地元の魅力を再認識する一冊を作りたかった」と田岡さん。村史を読み返し、一年以上の期間をかけ、先輩方から伝承や風習をお聞きし、四季の自然や住民の写真と共に編さん。村に残されていた物語が、生き生きと伝わってくる本に仕上がり、平成4年に発行された。これは、田岡さんの現在の活動のルーツにもなっているという。「それから間もなくして、絵本作家の田島征三さんから、『本を見たよ』と連絡があったんです。本当にびっくりしましたね」。

休校になった体育館や校長室には、映画の記念品や郷土関連の資料などが大切に保管されている。

村の暮らしを 映像として記録し 伝えていくこと

折しも、自身の自伝的なエッセイを原作に、映画化の話を進めていた田島征三さん。撮影のロケ地探しで、この本をきっかけに田岡さんとつながることができたのだった。田岡さんは地元のコーディネーターとして撮影に協力。撮影陣と共に地域を回り、村の情景を映像に収めていったという。そうして平成8年、吾北村を舞台にした映画「絵の中のぼくの村」が公開。「後世に残り続ける映画作品に、村の暮らしを記録できたことが嬉しかった」と田岡さん。実はその中には、もともと原作にはなかったものの、田岡さんの提案によって追加された、吾北地区の伝統的な手仕事、「楮(こうぞ)の蒸し剥ぎ」のシーンも。映画は、国内外で高い評価を得たのだった。

昔ながらの「楮」(吾北では、カジ・カジクサと呼ぶ)作業を取り入れた吾北上東地区の「集い」の活動。土佐和紙の原料になる黒皮をへぐった白皮は、学校の敷地内で乾燥させている。

ドキュメンタリー映画と 活動の継承と 村の暮らしを後世に

その後田岡さんら住民と土佐和紙手すき職人等が連携し、楮畑の共同作業を開始。かつて高知の山間地は、土佐和紙に不可欠な楮の全国的産地だったものの、現在は後継者が激減するなど深刻な課題に直面している。その状況は過疎集落の縮図とも言える。これらを題材にしたドキュメンタリー映画「明日をへぐる」(今井友樹監督・シグロ作品)が令和3年に制作され、田岡さんは企画段階から参画。親や祖父母世代からの山里の暮らし、笑顔、吾北の原風景が映画に収められた。今後も「カジへぐり」などの集いを続け、「方言(言葉)や文化を記録したい」「蓄積したつながりを楽しみ、集落を維持したい」と話す。吾北地区でつむがれてきた暮らしを伝えるべく、奔走を続けている。

村の歴史はもちろん、暮らしや文化をおさめた「ごほく樹と水物語」。