嶺北の夏を盛り上げる奉納相撲

だんじり祭り

●本山町上関 ●2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で開催中止
本山町指定の無形民俗文化財として登録され、現在では県外や外国の参加者が集まる奉納相撲。相撲の常識を逸脱したユニークなルールや、会場内に剥き出しで吊り下げられたお札(賞金)が印象的。

白浜自慢のけんか祭り

 「上関 阿弥陀堂奉納相撲」の起源は、江戸時代・万延の年頃(1860年代)。上関に疫病が流行して凶作に見舞われ、病気回復と豊作を祈願するための神事として始まった。住民らが草相撲の横綱力士に依頼し、上関の竃神社(現在の阿弥陀堂)で土俵入りを行ったことがきっかけとなり、約160年、山間部の小さな町の一大行事として、地元民に愛され育まれてきた。平成24年には本山町指定の無形民俗文化財として登録され、現在では嶺北地域をはじめ、県内外からも参加者が集まる大祭へと成長。そのルールがとてもユニークで、見物客を大いに沸かせている。  奉納相撲のルールはこうだ。総当たり戦を行い、実力が拮抗すると思われる力士を選び、「お好み三番勝負」という対戦を3回させ、「甲」「乙」「丙」のチーム分けをする。別れたところで、各々のチームで取り組み優勝者を決める。面白いのは、その後、優勝者以外の力士で行う「飛びつき5人抜き」で、立て続けに5人抜きで勝利を目指す。1人倒すと間髪入れずに次の力士が飛びかかってくるという迫力満点の勝負。このユニークなルールにより肉体自慢の力士が脱落し「番狂わせ」が起こることもしばしば。勝者には会場に剥き出しで吊り下げられたお札(賞金)が進呈されるという斬新な展開で、見物客の歓声と共に会場は熱気に包まれる。
   

町に賑わいと活力を

 毎年、暑中見舞いを出す頃、実行委員会の呼びかけを皮切りに祭りの準備が始まり、地区の住民や市街地の事業者らが手を取り合い町が活気付く。現在では、可愛らしい「子ども相撲」や「おんな相撲」も行われるようになり、地域の老若男女が一丸となって祭りを盛り上げている。当日参加もOKとあってか、昨年は外国人参加者の姿も。この祭りの実行委員を務める本山町議会事務局の泉さんは、「伝統ある行事ですが、外からの風も取り入れながら、皆に愛される楽しい祭りとなるよう、頑張っていますので、ぜひ見にきて欲しいです。飛び入り参加大歓迎! まわしも用意してますよ!」と、祭りへの想いを語ってくれた。


一條神社に70年伝わる相撲大会

全日本女郎ぐも 相撲大会

●一條神社(四万十市中村本町1-3) ●2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で開催中止
中村地区の中心地にある一條神社は、下向した一條教房公が御所を構えた場所。土佐一條氏歴代の霊が祀られている由緒ある神社で、夏休みに親子で楽しむ祭りとして「全日本女郎ぐも相撲大会」は定着している。

一條のお殿様が開催した 雅な宮中遊び

 中村の中心商店街のすぐ側にある一條神社では、毎年8月初旬、「全日本女郎ぐも大会」が開催される。小学生までの男の子と女の子が、一見恐ろしい姿をした女郎ぐもを怖がりもせず操る姿が印象的だ。この大会の起源は、戦国時代に遡る。応仁の乱を避けて中村に下向した一條氏が宮中遊びを懐かしみ、女官達を喜ばせるためにくも同士を戦わせたのが始まりで、それがいつしかわんぱく小僧たちの間で広がり、昭和25年から現在の大会へと発展した。

子ども達の思いを託した 女郎ぐもの熱い戦い

 子ども達はこの日のために一生懸命育てた選りすぐりの一匹を枝にくっ付けて大会に集まってくる。枝の先にぶら下がっているのは、多量の糸を勢いよく出す胴体部2㎝程の女郎ぐも(正式にはコガネグモと呼ばれている)。土俵となるのは40㎝程の細い棒の上。くもの縄張り本能を利用して戦わせ、落ちたり逃げたり噛まれたりすると負けとなる。落ちまいとぶら下がった糸を棒の上のもう一匹が切って落とす「やぐら落とし」や、相手の体を噛む「がっぷり」など4つの決まり手があり、行司の軍配によって勝敗が決まる。対戦するのは全長わずか2㎝の真っ黒いくもとあって、その見極めがなかなか難しく、大会関係者らは、対戦の一挙手一投足を固唾を呑んで見守る。一生懸命育て上げてきた自分の分身である女郎ぐもを見つめる子ども達の真剣な眼差しからは、幼い子どもながらも熱い気迫が伝わってくる。  近年は、観光客にも気軽に参加をしてもらおうと、四万十市観光協会が女郎ぐもを用意して「観光の部」も設けられた。大会自体の規模は大きいわけではないものの、子ども達が大切に育てたくもに注ぐ思いと、由緒ある一條神社で行われる遥か昔の宮中遊びの風流さが魅力となって70年も続き、現在ではすっかり無くてはならない恒例行事に。「迫力ある女郎ぐもの戦いと子ども達の輝く瞳の純真さが魅力の祭りです」と一條神社の川村宮司はこの祭りの魅力を教えてくれた。