GUEST
画家/上村菜々子さん
香南市出身。美術大学の修士課程を修了後、東京で中学校の美術講師となる。令和元年より馬路村の地域おこし協力隊員に着任。村の文化振興に貢献する活動を行うとともに、自身の創作活動にも取り組んでいる。
第1週目放送
第2週目放送
絵を描き続け 新たな変化を求めて 辿り着いたのは馬路村
艶をまとった紙の上に、にじんだり、太さが異なる線が描かれ、あれ? よく見たら表面はちょっと凸凹してる。高知出身の画家・上村菜々子さんが描く絵は、紙に蜜蝋(みつろう)を薄く塗布し、その上から引っ掻くように線を描き、さらにその引っ掻き線の中にインクを入れていくという、独自技法によって生み出される。
香南市のみかん農家で生まれ育った上村さん、本格的に絵を描き始めたのは高校2年生のころ。それまで美術の成績が安定して良かったことから美術予備校に通い始め、その後は大阪芸術大学で抽象絵画を学び、多摩美術大学院へ進学。絵画表現の可能性を追求し制作に取り組んだ。
大学院修了後は東京で中学校の美術講師を務めながら自身の創作活動も続けていたのだが、作品の変化を求めて住むところを変えようと思い始めた。移住先の条件は「アート活動ができて、温泉があるところ」。
日本全国を視野に入れていたが、出会った場所は高知県の馬路村。生まれ育った香南市からそれほど離れておらず、東京との行き来もそんなに苦ではない、何より温泉があって、思っていたほど秘境じゃない! そうして令和元年4月に馬路村へ移り、地域おこし協力隊に着任した。
保育所での授業風景で、有名絵画の塗り絵をする子どもたちの様子。
「馬路温泉」の男湯に描いた龍の絵。
美術教育、壁画制作 イベントの企画と運営 広がる活動の場
地域おこし協力隊に課されたミッションは「村の文化振興に貢献する活動」。その中のひとつに中学校・保育所での美術教育があったのだが、上村さんが美術を通して伝えることととして大切にしてきたことがある。それははみだしてはいけない、写真のように„上手く〝 書かなくてはいけないということを取っ払って、自分から生まれる線や色を楽しむこと。
「キャンバスの上では美しい嘘ならついていい」と声かけをして、子どもたちがどんな表現をしていても受け入れる。それを続けることによって苦手意識を持っていた子がどんどん美術を好きになっていく光景を目の当たりにして、自身も大きな刺激になったそう。
そして次に、壁画の創作活動。これまで「馬路温泉」の男湯の壁に龍を描いたり、ふるさとセンター「まかいちょって家」のトイレの壁には、馬路村の豊かな自然、林業、ゆず産業などを表現する壁画を描いた。また村外では「高知 蔦屋書店」の室内の壁なども手掛け、県外にも作品がある。
「壁画はその場所から動かすことができないので、そこにある意味や周りに溶け込む空気感も大切にしています」。そしてもう1つ、活動の軸にしていたのがイベントの企画&運営。上村さんが手掛けたイベントの代表として挙げられるのが「ウマジアートブリッジ」だ。
湧き上がる感覚を大切に ゆくゆくは表現者が 集う場所を作りたい
「ウマジアートブリッジ」が初めて開催されたのは令和元年のこと。上村さんの伝で馬路を訪れていたドイツ在住の美術家・杉本龍哉さんが、村内に架かる「杉の瀬橋」の上でポツリと言った「この橋、いいよね」という言葉に端を発し、アート、クラフト、フードを紹介・販売するイベントとしてこれまで4回開催された。
「外からの新鮮な視点で表現された馬路村に新たな魅力を発見したり、村の人たちが知っている魅力を語り始めたりする時間が生まれてとてもよかったです」。この7月で地域おこし協力隊は退任したものの、企業などから依頼を受けて絵を描くことも増えてきた。多忙を極める毎日だが、絵を描く姿勢が変わることはない。
「これだ!と描きたいものが形なき感覚で湧き上がってから創りはじめることを大切にしています。使命感や何かに捉われている感覚があるときは、自由な感覚を手に入れるために関係なさそうなことをしたりして感覚をリセットします。無理に描こうとするとアートの自由で力強いエネルギーが消えていってしまう。だから自然と生まれてくる感覚であるよう気をつけています」。
上村さんの夢は、生まれ育ったビニールハウスの中にアトリエを作ること。いろんな人が集まって表現するエネルギーが詰まった空間。それは、小さな頃から慣れ親しんだ、父の作品とも言えるみかんの木が展示されている、なにかが「育つ」温室のような。
FM高知で毎週金曜放送中のラジオ「プライムトーク」に出演した時の様子。上村さんの出演回は8月6日、13日の2週にわたってオンエア。