高知の風土に育まれた「土佐人」たちは 今日もそれぞれの分野から「土佐の風」を発信 そこに新たな文化を重ねながら
「活版印刷」とは、活字を組み合わせて作った版(活字組版)を使った印刷方法のこと。デジタル化の一途を辿る現代社会において、あえてこの昔ながらの印刷方法を用いて生み出される作品には、一つひとつに唯一無二の温かさが宿っている。
文字との出会い、師匠との出会い 導かれるように活版印刷の世界へ
幼少の頃から本が好き。と言っても、読むのではなく、そこに並ぶ文字の形を見るのが好き。他にも、教科書の余白部分に興味を抱いたり、習っていた硬筆では先生が書く文字が紙にのっていく感じを見るのが好きだった竹村さん。今思えば当時から今の職業へと繋がる片鱗が少しずつあったことは間違いない。そこから、デザインの分野に興味を抱くようになり、京都でグラフィックデザインを学んだ後、高知でグラフィックデザイナーとして働いていた。活版印刷に出会ったのはその頃のこと。「仕事で知り合った方にいただいた名刺が、普通の印刷じゃないことに気づいて。それが活版印刷で作られたものだったんです」。そうして独自で活版印刷について調べていくうちに辿り着いたのが、高知市升形にある高明堂印刷(現在は廃業)。そこで、今でも「師匠」と慕う、西村さんに出会った。「最初はちょっと煙たがられましたが(笑)、とにかく通いつめて次第に打ち解けていき、いろんなことを教えてもらいました」。そんな中、当時の仕事にやりがいは感じていたものの「次のステージへ」と一念発起。2009年に退社し1年の準備期間を経て、2011年2月「竹村活版室」をオープンした。
手間と労力をかけてでも伝えたい 活版印刷の魅力とは
「竹村活版室」があるのは高知市三園町。扉を開けると6畳ほどのスペースが広がり、カウンターを隔てた半分が作業スペース。そこには、大阪から取り寄せたという年代ものの印刷機や、師匠から譲り受けた活字、それをしまう棚など、年期を感じさせる道具がそこかしこに溢れている。とはいえ、全ての工程を昔ながらの方法で行うのではなく、作業の半分ほどはデジタルを併用しているのだそう。「まずはパソコンでデザインをおこして、そこからが本番。活字を組み合わせていく作業が、一番時間と労力を費やします」。例えば、パソコン上ではキーボードひとつで入れられるスペースも、活版印刷の場合は文字と文字の間に込物(こめもの)と呼ばれる部品を入れてスペースを作る。しかもそれが全角か半角か、はたまたそれ以外の間隔かによっても、使用する込物が変わってくるという。このデジタル化社会において、どうしてわざわざ手間のかかる「活版印刷」を職業に選んだのか。「紙の上に文字がきちんとのっているということを、物質的に感じられるところです。目にした時に、普通の印刷にはない温かみ、良い意味で違和感を感じるところも魅力です」。出会ってからというもの、活版印刷の魅力にのめり込む一方で、仕事を通して出会った人たちから刺激や気づきを経て、今新たな活路を見出している。
出会い、気づき、発見 小さな世界をずっと大切に
竹村さんは活版印刷の仕事と平行して、ご主人のデザイナー・タケムラナオヤさんを含む県内のデザイナー3名とともに「土佐和紙プロダクツ」を立ち上げ、土佐和紙の魅力や使い方を広げる活動を行っている。遡ること10年前、2009年に「いの町紙の博物館」で開催された「使える和紙展」の企画をご主人の事務所が請け負い、竹村さんもそこに参加したことをきっかけにこの活動がスタート。手漉き和紙を中心とした土佐和紙にデザインを施し、日常使いできる色々なものが生まれている。「普段1人で仕事をしているためか、作家さんやデザイナーさんと活動すると、自分では気付けなかったことに気付いたり、たくさんの刺激を受けますね。そんな中で生まれたアイデアをヒントにこれからも作品を作っていきたいです」。土佐和紙に活版印刷と、昔からあるものに新たな息吹をもたらして、現在に伝えていく。そんなコアな世界で活躍する竹村さんが抱く今後の目標とは。「大きな夢や目標を追いかけるというよりは、紙や文字にまつわる、より小さな世界を大切にしていきたいです。活版印刷やその周辺のものごとの良さも伝えていけたらと思います」。
FM高知で毎週金曜放送中のラジオ「プライムトーク」に出演した際のスタジオの様子。竹村さんの出演回は、10/4、11の2週に渡ってオンエア。