プライムトーク 右城松風堂 四代目/田村 太一さん

高知の風土に育まれた「土佐人」たちは 今日もそれぞれの分野から「土佐の風」を発信

そこに新たな文化を重ねながら…

一世を風靡した羊羹の名店を継いで

気負わない姿勢で守り続けていきたい。

GUEST

右城松風堂 四代目/田村 太一(たむら たいち)さん

田村太一さん

高知を代表する 四万十川の銘菓と

少年時代の記憶

 高知の「筏(いかだ)羊羹」といえば、四万十川の名物として知られる昔ながらの銘菓。かつて林業が盛んだった時代、山林から切り出した材木を下流に運ぶために、豪快にも丸太を筏に組み上げて四万十川に流していた、当時の懐かしい情景をモチーフにしている。考案したのは、伝統ある地元の菓子舗「右城松風堂」の二代目、右城金喜(かねき)さん。金喜さんの才覚もあって、筏羊羹は昭和30年頃に登場すると、瞬く間に人気となり、テレビCMではテーマソングまで流されるなど、一世を風靡した。  

 そんな金喜さんを、腕利きの菓子職人というよりも、肩肘を張らず「うちのおじいちゃん」と呼ぶのは、四代目の田村太一さんだ。「小学生の僕にとって、右城松風堂は、夏休みに訪れるおじいちゃん・おばあちゃんの家でしたね」と振り返る。当時は「あの筏羊羹のお孫さんか」と大人に驚かれることもあったが、太一さんはおかまいなし。筏羊羹を食べた記憶こそあれど、それよりも、四万十川での川遊びなど、田舎に帰った子どもなら誰もがするような時間を楽しんだ。「ただ、みんなすごく忙しそうだな、と子どもながらに感じたことは覚えてます。おじいちゃんも当時の従業員さんたちも、晩御飯を食べる時間もないまま、夜遅くまで仕事して。それくらい繁盛していたんだと思います」。

羊羹を流し込む様子

先代の言葉に戸惑い 自ら家業を継ぐ決意

伝統の羊羹を守ること

 「家業を継ぐことは考えてなかった」と言う太一さん。大学進学を機に東京へ出ると、そのまま都会で就職。会社員としての日々を送っていた。しかし、そんなある日、三代目として店を切り盛りしていた母親の田村昭子さんの「誰も継がなかったらお店を畳もうと思う」という言葉を耳にする。実は右城松風堂は、金喜さんの亡き後、昭子さんら3姉妹が守っていたのだ。その後、子どもが生まれたタイミングもあって、「長年愛されてきたお店がなくなることに、やはりひっかかりを感じた」と、太一さんは高知にUターン。四万十市の店舗に入り、昭子さんたちのもとで右城松風堂の羊羹づくりを学び始めた。  

 初めて立った筏羊羹の製造現場で実感したのは、「変えていいところは何一つない」ということだ。羊羹では珍しく国産の糸寒天を使用するこだわりも、甘さを控えたあんこの風味も、なにより羊羹を筒状にする流し込みの作業も、すべてが筏羊羹の本質。「特に羊羹を火にかける工程は職人技で、6年ほど作っていますが、今でも品質の管理を母親に手伝ってもらっていますね」と話す。何かを変えるのではなく、受け継がれてきたものを守っていくこと。その意志が太一さんを右城松風堂の四代目たらしめている。

羊羹

ほとんどが手作業で製造される筏羊羹。観光客のお土産はもちろん、地元住民も日常的に買い求める、四万十市名物のお菓子だ。

田村太一さん

続けていくことが大事 気負わずにゆっくりと

新しい伝統を形に

 とはいえ、のんびりとした雰囲気の太一さん。右城松風堂での仕事も決して気負わず、「暮らしの一部ですね」と自然体で取り組む。「お店を潰さないように頑張って、次代にバトンを繋げたら」というのがモットーだ。そんな太一さんだが、四代目として新たに始めたこともある。筏羊羹以外のお菓子をさらに広める取り組みだ。「四万十川名物の鮎をモチーフにした『鮎最中』など、ずっと店舗だけで販売していた商品を、新たに卸販売するようになりました。

鮎最中

お菓子の味は変えず、初めて商品を見る人でも興味が持てるように、中身が見える透明のパッケージデザインに変えたりもしていますね」。さらに、右城松風堂ではおよそ60年ぶりとなる、新しいお菓子「ようかんまる」も開発。まん丸としたひと口サイズの羊羹に、四万十栗のペーストが包まれたお菓子だが、製造方法では、太一さんの前職である、チョコレートオーナメントのメーカーでの経験も生かされているという。それでも、「新しいことは、ほどほどにゆっくりと。従業員の皆さんを含めて、現状を続けられることが第一」と、自身の日々を牛歩の歩みに例えて笑う。太一さんのおおらかな人柄が、垣間見える。「筏羊羹も県外では、『四万十川の情景』より『食べやすい』ということで評価してもらうことがあります。伝統で売るのではなく、それぞれの形で好きに楽しんでもらえたら嬉しいですね」。

田村太一さん-プライムトーク収録の様子

エフエム高知で毎週金曜日に放送中の「プライムトーク」に出演した時の田村さん。田村さんの出演回は、令和5年10月6日、10月13日の2週にわたってオンエア。