山道で、街路市で、街中で、そこにあるのは高知の暮らしに寄り添う自転車の存在。
それぞれ4つのシーンに分けて自転車とそこに関わる人の暮らしを垣間見る。
クロスバイクで駆ける高校生
坂道の多い山間部にある「梼原(ゆすはら)高校」の野球部員は、学舎から約4km離れた練習場まで毎日自転車で通っている。その高低差は約100mで、坂道をひたすら上った先にグラウンドがあるのだ。彼らの停めた自転車を眺めると、クロスバイク率はなんと100%!
「急な坂道を上って行くのでママチャリでは厳しいですね。少しでも早くグラウンドに向かい、少しでも長く練習できるようクロスバイクを愛用しています」と語るのはキャプテンの田中くん。彼らの移動に自転車、それもクロスバイクは欠かせないアイテムとなっている。遠方から通う部員も多く、自宅から学校までは親が車で送迎し、部活動の移動は自転車という、山間地域の学生らしい自転車の暮らしが垣間見られた。
街路市に欠かせない相棒
日曜市で生花を販売している水口さんは、この道50年の大ベテラン。幼い頃から両親の仕事の手伝いで日曜市に来ていたそうで、「昔はみんな自転車で荷台を引っ張りよったがよ」と古い光景を語る。
昭和後期にかけて多くの出店者が車を使うようになっていくが、現在でも水口さんをはじめとする数人は日曜市で自転車を愛用している。12年ほど前から水口さんが続けているのは、車で出店準備をしたら一度自宅へ戻り、そこから自転車に乗り換えて、また出店場所に戻ってくるというルーティン。もともとは運動不足の解消が目的だったが、今では「混雑しちゅう追手筋(おうてすじ)を移動するのにはコイツが一番!」と、出店日には欠かせない相棒になっている。
昭和30年頃の日曜市の様子。自転車にたくさん荷物を載せた人の姿も見える。
社長が自転車でやってくる!
高知市で動画制作会社とカフェを経営している樽見さん。多忙な社長の身ながら、移動手段はもっぱら自転車だ。「高知は車社会なので、クライアントさんには『えっ、自転車で来たの?うち駐車場あるのに!』と驚かれることもありますね。でも渋滞にまきこまれずに移動できるし、その日の仕事の優先順位にも合わせやすいので、便利なんですよ」と話す。
あえて自転車を選ぶ経営者の知り合いも居り、「高知県人って社長でもどこか気取らないなぁ」と思うことも。「自転車だと、それまで通ったことがない道を不思議と選んでしまうんですよね。それが発見とか驚きとか、日常のリフレッシュになるんです」と、自転車好きらしいフットワークの軽さで話してくれた。
自転車と共にタクシーで帰宅!
自転車を積載したタクシーが町中を走る様子は、高知では馴染みのある風景。県内でこちらのサービスを実施している「さくらハイヤー」では、全車両の1割程度が自転車の積み込みに対応している。
「本当はこのサービスをたくさんの人に利用してもらいたいのですが、昨今の人手不足とドライバーの高齢化で重い自転車を積む作業ができるドライバーは多くありません」とドライバーの大塚さんは語る。自転車の故障や体調不良など利用シーンは多岐に渡り、中でも自転車で来てタクシーで帰るという、坂道が多い地区に住む人の利用や、飲み会後の利用など、困った時に駆け付けるヒーローのごとく、今日も高知県民の自転車生活を支えている。