高知の風土に育まれた「土佐人」たちは 今日もそれぞれの分野から「土佐の風」を発信
そこに新たな文化を重ねながら…
幅広い鉄道業務を渡り歩いた40年
鉄道が繋ぐ地域ならではの魅力
GUEST
四国旅客鉄道株式会社 高知企画部 部長／田岡 弘久（たおか ひろひさ）さん
幅広い鉄道業界に 飛び込んだ物語
国鉄からJR四国へ
「鉄道」と一口に言っても、その事業を成り立たせるには、非常に多岐にわたる業務が求められる。国鉄時代、もともとは、いわゆる技術屋として働き始めた田岡さんが、およそ42年にわたって従事してきた仕事は、職員の人事に、沿線の開発事業、官公庁との折衝に、駅長、まちづくりと、まさに鉄道業界ならではの幅広さだ。 「幼い記憶をたどれば、鉄道が好きだったんでしょうね」と話す田岡さん。高知駅にほど近い町で生まれ育ったこともあり、「日常のなかに鉄道があった」と振り返る。高知工業高等専門学校で機械工学を学んだことから、「鉄道車両の製作に携われたら」と、昭和56年、当時の国鉄四国総局に入社。駅などの空調や機械設備の保守・点検をはじめ、鉄道工事の監督役などを務め、充実した日々を過ごしていた。最初の転機が訪れたのは、その５年後。「ある日、『人事課に転属してくれないか』と打診があって。その当時は、まさに国鉄の分割民営化のタイミングで、四国管内だけでも四千人の職員のJRへの再雇用にまつわる業務が発生したんです」。田岡さんは、一転してまるで経験したことがないほどの膨大な書類仕事に投げ込まれることに。手書きでたくさんの採用通知を作成したことは、今でも当時の印象として強く残っている。
豊富な経験を生かした 高知県の駅長時代
安全第一という心
田岡さんは「今となっては、『どこが自分の古巣か』と聞かれてもなかなか答えづらいですね」と笑う。それもそのはず、人事課を離れてからは、沿線のホテルやショッピングセンターの開発に携わったり、運輸省との折衝役として東京に転勤したりと、方々を飛び回った。
平成19年には、高知県南国市にある「後免駅」の駅長に着任。「駅長の仕事は、ずばりなんでも屋さん。お客様が駐輪されている自転車を整理することから一日が始まり、ホームもトイレも駅長がホース片手に自ら洗っていました」と振り返る。
さらに平成25年からは「高知駅」の駅長に就任し、沿線にある他の駅の管理を含めた、幅広い駅長業務を経験。例えば、雨天でダイヤが大幅に乱れた時などは、高知駅から遠隔無線を使い、各駅で列車を待つ乗客に情報を呼びかけたこともあった。さらに鉄道のPRでは、駅長の一張羅である白の制服と制帽に身を包み、観光イベントの顔に。よさこい祭りでは、「JR四国 踊子隊」の一員として制服姿で追手筋での演舞もやり遂げたというから驚きだ。「駅長になってもお客様と従業員の安全が、何よりも第一。そこではじめて、おもてなしの心で質の高いサービスを提供することができ、ひいては会社の収入アップがあると思います」。
高知企画部で業務を行う。高知駅に新設された「アンパンマン列車ひろば」にも携わるなど、駅に足を運ぶきっかけ作りも手掛けている。
観光に町づくりに 鉄道が描くレールは
未来に繋がっていく
現在、田岡さんの肩書きは、高知企画部の部長。地元高知県の自治体と協働して鉄道利用の促進や観光振興などに努めることが主なミッションだ。近年の大きなトピックは、やはり令和２年に運行を開始した、観光列車「志国土佐 時代（トキ）の夜明けのものがたり」。
地元食材を使った食事や地域ならではのおもてなしを体験できる観光列車で、PRに力を入れる田岡さんは、高知市の「入明（いりあけ）駅」の愛称を「志の龍馬駅」として、駅に坂本龍馬像を建てる活動にも参加した。さらに令和５年６月には、土讃線名物の「アンパンマン列車」の利用者数100万人突破を記念したイベントも開催したという。
また、公共交通のデジタル化・キャッシュレス化という課題にも積極的に携わり、いつでもどこからでもキャッシュレスで切符を購入できるチケットアプリ「しこくスマートえきちゃん（スマえき）」の広報業務も務める。沿線自治体の公共交通会議にも積極的に参加し、未来の鉄道に向けて新しい提案を行っている。
そんな田岡さんが大事にしているのは、鉄道を生かした地域活性化だ。「各地の地域・文化資源を掘り起こし、地域と協働して観光・文化に磨きをかけていく、観光による地域活性化を目指しています。これまで培った人脈も生かして、お客様や後輩の職員たちに恩返しをしていきたいですね」と目標を話してくれた。
エフエム高知で毎週金曜日に放送中の「プライムトーク」に出演した時の田岡さん。田岡さんの出演回は、令和5年6月30日、7月7日の2週にわたってオンエア。