伝え継がれる土佐物語
「お月さま、お日さま」
とんとむかし、山おくの村に、おじいさんとおばあさんが、住んでおったそうな。
家のすぐ向こうに高い山があって、そこに畑を作ってソバをまいたと。その年はシケもなくソバがよう出来たので、秋も深うなったある日、おばあさんは一人でソバかりに行ったそうな。
ソバがよく出来ているので、おばあさんは日が暮れるまでかりよったら、東の山から十五夜のお月さまが出た。おばあさんは、おなかがすいたのでソバを食べながら、
「ええ、お月さまじゃこと」とお月さまをながめよった。
ほいたらお月さまが、ニコニコしながら、
「おばあさん、わたしにもソバを一ぱい食べさしてくれませんか」
「はいはい、お安いご用です」
おばあさんは、ソバを大きなドンブリへいっぱい盛ってやった。お月さまは大喜びでおいしい、おいしいと食べて、帰りしなに、
「ごちそうさま、これはすこしですが」と、三円おいていったそうな。
おばあさんは、あまりの大金に「これはもうけた」とうきうきしながら帰ってきたと。
そのあくる日、おばあさんは、また山の畑へソバ刈りに行った。お昼の弁当にソバを食べよると、こんどはお日さまがいうたと。
「わしにもソバを一ぱい食べさしてくれんか」
「はいはい、お安いご用です」
おばあさんが、ソバをいっぱいお日さまにやると、「おいしい、おいしい」いうて、舌つづみを打って食べたそうな。お日さまが、
「おばあさん、いくらあげましょうか」
「きのう、お月さまに三円もらいました」
こういうと、お日さまは早がてんして、
「月が三円なら、日は十銭でよかろう」と思うて、十銭おいて行ったと。
おばあさんはお金を見てびっくり。たったの十銭だったき「損をした、損をした」と、大きなため息をついて、いつまでも嘆いておったそうな。
むかしまっこう、さるまっこう・・・・・・。
出店 土佐とんとむかし(お母さんの3分ばなし)
著者 市原麟一郎
絵 狩野富貴子
天衣無縫に生きた土佐おどけ者の生き様に惹かれ「近代土佐における、おどけ者の探求」を行い、数々の民話を発行。そんな市原麟一郎氏が惹かれたおどけ者は「いごっそう」「どくれ」「ひょうげ」「そそくり」「かんりゃく人」「のかな奴」「おっこうがり」「てんごのかぁ」「ごくどうもん」など。