ご当地スポーツ【ボートレース】〜地域に根ざした舟こぎ文化〜

鯨舟復活のきっかけは 宴席での軽い冗談から

今から35年以上前、日本の商業捕鯨が禁止され、捕鯨基地として栄えていた室戸市に暗い影を落とし始めていた頃、室戸市内で開かれたある宴席で、出席者の一人が冗談交じりに「昔の鯨舟を浮かべたいな〜」とつぶやいた。当時、そこに同席していたのが、現在「土佐室戸鯨舟競漕大会」の実行委員長を務める米澤善吾さん。彼はその言葉の響きに得も言われぬ魅力を感じたと、懐かしそうに当時を振り返る。

「海の駅とろむ」に保管されている鯨舟。室戸の鯨舟ならではの伝統的文様が印象的。

  まだエンジンが動力の捕鯨船がなかった藩政時代、捕鯨は「勢子舟(せこぶね)」と呼ばれる人力による小型舟を使って行われていた。室戸では数多くの勢子舟が海へと漕ぎ出でて、鯨を銛(もり)で仕留めては、人々に貴重なタンパク源を提供し、市民の生活を支えていた。「その歴史や技術を継承したい。これは室戸を盛り上げるチャンスだ」。米澤さんはそんな思いに突き動かされるかのように奮闘を始めた。高知県や室戸市に掛け合い、鯨舟復活の支援を要請。単に鯨舟の復元だけでなく、イベント性を持たせた鯨舟競漕大会の実現を目指して奔走した。自治体からの協力を得て、市内の神社に保存されていた勢子舟の模型をモデルにして鯨舟4隻を復元。そして1985年遂に、第1回鯨舟競漕大会開催にこじ付けた。大会には、艪(ろ)で操る古式鯨舟レース、櫂(かい)で操る一般鯨舟レース、子ども対抗レース、ダンボール製の舟のレースの4種目が設けられ、当日は大勢の人が詰めかけて、室戸の町にかつてのような賑わいが復活した。


魅力ある室戸の 伝統文化を次世代へ

 そんな鯨舟競漕の魅力を教えてくれたのは、副実行委員長として、そして古式鯨舟の漕ぎ手として、第1回目から米澤さんと共に大会を支える剱物(けんもつ)正悟さん。山口県出身で幼い頃から艪舟を操り海と親しみ、47年前に室戸の海に魅了され移住。今や生粋の室戸人を凌ぐ鯨舟の操り手だ。「艪で水を捉えた時の推進力が何より気持ちいい」。長さ約4・5m、重さ10キロ以上ある八丁艪を使いこなすためには「腰を中心に体全体を使って動かすのがコツなんです」と誇らしげに笑みを浮かべる。

八丁艪の操り方を見せてくれる剱物さん。漁師としても活躍し、室戸の海を知り尽くしている。

 途中、台風による大会中止など途絶えた年はあったものの、鯨舟競漕大会は今年で35回目。昔ながらの鯨舟を使った大会は次第に話題となり、高校生や県外からの参加者を増やし年々盛り上がりを見せている。大会に参加するためには1チームに10人以上が必要だが、交渉次第で1人での飛び入り参加も可能で、開催日の10日ほど前から、初心者も自由に練習できたり、大会当日には体験乗船も行っていたりと参加も容易。また、大会日以外でも「海の駅とろむ」に足を運べば、長さ13mの鯨舟の側面に、菊や桜をモチーフにした文様が描かれた鯨舟を間近で見られたりと、気軽に伝統文化に触れることができる。室戸市民の熱い思いの結晶とも言えるこの伝統行事。単に見て楽しむだけでなく、参加者として、裏方として参加して、室戸の文化の神髄に触れてみるのも良いかもしれない。


【ご当地コラム ❷】高知県唯一の 龍船競争!
浦ノ内湾で 繰り広げられる 須崎の夏の風物詩

 毎年8月、横浪半島に囲まれた浦ノ内湾で開催される「須崎市ドラゴンカヌー大会」は、高知県内で唯一開催される龍舟競争として知られる。龍舟(ドラゴンカヌー)とは、中国を起源に持つ、幅が狭く長細い形をした舟のこと。その名の通り、船首と船尾には龍の頭と尻尾をあしらい、本物の龍さながらに進んでいくのが迫力満点だ。  この大会は、須崎工業高校造船科の学生が授業の一環で制作したドラゴンカヌーを須崎市に寄贈したことがきっかけとなり、1999年から開催。ドラゴンカヌーは、全長20メートル、幅1.4メートル。この舟に24人のこぎ手が左右に分かれて乗り込み、艇長、かじ係り、ドラ係りの3人と共に、かけ声に合わせて、力を振り絞り漕ぎ進んでいく。第4回大会からは女性を対象にしたドラゴンカヌー「かわうそ艇」も登場し、女性の参加チームも募集中だ。会場となる浦ノ内湾は、上空から見るとその入り組んだ地形から龍とも例えられ、まさにドラゴンカヌーにふさわしいロケーション。湾内の穏かな海上に設けられた、特設コースで繰り広げられる熱い戦いに声援にも力が入る。会場では屋台も並び、レースの合間に地元グルメも満喫できる。 

大会への参加申し込みや問合せは、須崎市ドラゴンカヌー大会実行委員会事務局(☎ 0889-42-8591)へ。