室町時代から庶民の調味料として使われてきた味噌。土佐の漁師は臭み取りにカツオを味噌湯でわかし、山の猟師はイノシシなど獣肉を味噌に漬け込み焼いて食べたほど。高知県には大きな味噌醸造メーカーはないものの、今も街路市や直売所、道の駅を覗くと、かなりの確率で「手作り味噌」に遭遇する。
味の決め手は自分の菌!?
味噌は買うものではなく「作るもの」。菌活(きんかつ)ブームに乗ってか、県内で味噌作り教室が増えている。高知市上町の冨士味噌が行う天然醸造ワークショップを覗いた。
「人間には約100兆個の菌が棲んでいる。味噌を作る時も、麹(こうじ)の菌とその人の常在菌が混ざることで、その人だけの味になる」。味噌を仕込む前に手を洗おうとすると、「石けんは使わない!」と注意される。手に棲んでいる菌を取り除かないよう、流水で汚れだけを落とすのだという。
いざ味噌を仕込む。蒸した大豆を手でつぶし、米麹と塩を加えてひたすら混ぜる。同じ材料、同じ部屋で仕込んでいても、隣の人のものとは色や艶が違って見える。持参したタッパーにつめると味噌の素ができる。
手前味噌を作る
仕込んだ味噌の素は持って帰って家で育てる。発酵をすすめるための重しをし、週に一度は様子を見ながら、表面のラップを替え、白カビが出たら取り除く。
菌は春から夏にかけて活発に発酵をすすめ、日ごとに味噌らしくなってくる。
味噌を仕込んで丸1年。味噌らしい匂いと色合い。味見をすると、塩辛さもマイルドになっている。
これは毒ではないので、 取り除いてラップを替える。
半年経ったら天地替えを行う。 底の味噌と天井の味噌を それぞれ丸めて、上下を入れ替える。
1年後、完成!!
変幻自在の味噌のたれ
誰でも作れる味噌は、アレンジも自由自在! 野菜や魚など具を加えれば、おかず味噌。出汁(だし)や砂糖を加えて味噌だれに、また、酢でのばして「ぬた」とする。
高知ならではの冬の食材と言えば葉ニンニク。緑色の葉の部分をすり潰して味噌と混ぜ、酢でのばした「ぬた」は冬だけの調味料。醤油を弾くほど脂ののったブリの刺身には欠かせないし、鮮度が落ちやすいシイラや、厚揚げやこんにゃくなどは、「ぬた」が素材の味を引き立てる。
食材に合わせて味噌や酢の配合を変えたり、季節の酢みかんの汁を混ぜたり、料理をする人は〝※りぐったぬた〟を創作し、講釈しながら出してくれる。
混ぜて混ぜておかず味噌
ジャコやゆず皮、カツオのほぐし身など、味噌にお好みの具を加えて、砂糖やみりんで味を整えると、ご飯のお供やお酒のアテに大変身。
発酵パワーでさらに熟成
発酵する味噌の特性を生かして、さらに熟成をさせてみる。青梅と砂糖を加えて1か月ほど寝かせると「梅味噌」に。味噌にみりんや酒、砂糖を加えて魚や豆腐を漬け込めば、素材の味をさらに引き出す「味噌漬け」に。
手作りが楽しい自家製「ぬた」
酢と味噌をベースにした「ぬた」は、白味噌がなければ麦味噌でもいいし、葉ニンニクが手に入らない季節はニンニク玉で代用する。急なおきゃくの時も、台所にある調味料でちゃちゃっと作れる。
あなたの菌活応援します
冨士味噌(宇田味噌製造所)
高知市上町の味噌屋さん。土佐山田ショッピングセンターvalueなどで定期的に味噌作り教室を開催。
丸共味噌醤油醸造場
須崎市の醤油味噌醸造場。親子で参加できる味噌作り教室を開催。
井上糀店
四万十町窪川の糀専門店。初心者でも簡単にできる味噌キットやもろみキットなどを販売。
column 味噌雑学
味噌の原料は大豆と麹と塩。麹には米麹、豆麹、麦麹などがあり、全国各地にご当地自慢の味噌がある。かつて砂糖、塩、酢、醤油には税がかけられた歴史があるが、味噌は「庶民になくてはならない」という理由で例外扱い。 四国には、徳島県の米麹を使った御前味噌、愛媛県の麦麹を使った瀬戸内麦味噌があり、どちらも麹の割合を多くした甘口味噌。両県に挟まれた高知県には、米の産地香長平野の米味噌、愛媛県に近い梼原にはトウキビと麦麹を使ったキビ味噌、土佐藩の家老が掛川から移り住んだ佐川には中京味噌に似た「つしみそ」など、地域の味が伝えられている。
発掘!土佐弁「さしすせそ」
「味噌桶が出る」あまり外へ出たことがない人が外出すること。
[用例]今日は味噌桶がでたきに、雨が降るぜよ。
[訳]今日は出不精の人が外出したので雨が降るだろう。
(何か事が起こるかもしれない)