特集 高知のクラフト

暮らしの中の小さな驚きや発見を、身近な素材に映しだす。
ひとつとして同じものはない、手しごとが生み出す逸品。
手元におけば、さりげなく心地いい。

ポケットに木の手触りを━工房刻屋の名刺入れ

スマホよりひと回り小さく、継ぎ目も、装飾もない一枚の木の板。一方をパカっと割ると名刺が現れ、コンという音を立てて閉まるのも心地いい。サクラ、ナラ、ウォールナットなど、木の種類によって違う色合いや手触りを選べ、さらに長く持つことで手に馴染み、自分だけのものになっていく。  
 「なんていうか、土のある生活がしたいというか」。植村和暢さん(43)は、種子島出身。高知大学で林業を学び、卒業後は飛騨に移り家具工の修業をした。独立を考えた時、思い浮かんだのは高知だった。何度も通った演習林、素潜りした海。場所を探して箱バンで高知を回っていたところ森林組合の人と偶然知り合い、須崎市上分に落ち着いた。

緑の多い環境で名刺入れが生まれた。

ある時、農業高校に勤める大学の後輩が結婚することになり、引き出物用の名刺入れを作ってほしいと相談を受けた。 竹と牛乳パックから作る名刺用の再生紙をセットにして、贈りたいという。「ただの木の板をポケットから取り出して、そこから名刺が出てきたらおもしろい。そうやって毎日、木を持ち歩いてくれたら」。妻の厚子さんがデザインし、和暢さんが木を切って組み立てた。  
 高知に移り住んで10年。夫婦と子ども4人の一家を半農半工で支えている。暮らしの中で思い浮かんだアイデアを膨らませ、家具や子ども用のイスや机なども作り、古い家具の修理やまな板のカンナがけも手がける。「木の家具は、人の一生よりも長持ちする。本物の木を使えば、次の職人さんも修理できて、何世代も使ってもらえる」。

木の名刺入れは72㎜×105㎜×12㎜のサイズ。3,500円〜。 川村雑貨店(須崎)、日曜市、オーガニックマーケット(第2土曜)などで販売している。

遊び心を身に付ける━KOMOREBI Jewelryのブローチ
花や葉の金属のブローチは、 花や植物がいっぱいの工房は、作品のアイデアが湧いてくる。

ハナミズキ、アジサイの小さな花、イチョウの葉──。 身に付ける人の記憶を呼び起こす。子どもの頃に葉っぱや花を摘んで麦わら帽子に飾ったこと。思い出の草花を部屋に飾って忘れないようにしたこと。デフォルメをせずリアルな形だからこそ、時を経て色が変わっていくことさえ楽しめる。  
 平らな金属の板を花や葉の形に切り出して、トンカチで叩いて曲げ、本物そっくりの曲線をつくる。「来る日も来る日も、トンカチ、トンカチ。花びらや葉の質感に近づけていく地道な仕事」。彫刻刀で葉脈を刻み、上から白い塗料をコーティングして、やすりで削る。わざと火で炙って磨き上げをしないことで、ナチュラルな風合いを作る。  諏訪真里さん(31)が植物の作品を作るのは、浦戸湾を臨む高知市御畳瀬で育ったから。「父が鉛を溶かして作った釣り針で魚釣りをしたり、山芋の種を鼻に乗せては〝天狗の鼻〟と言って遊んだり」。  

結婚して市内の団地に引っ越した今も毎朝、1歳の息子と近所を散歩する。葉っぱを拾えば、幾何学的な葉脈に目を奪われ、枯れかけた花にもひなびた美しさを感じる。「一本の枝についた葉や花、花びらひとつとっても同じものはないんです」。葉っぱを乾燥させて紙袋に貼りつけたり、紫陽花や山芋の種などは展示用にストックしたり。アトリエは常に植物でにぎやかだ。

ブローチは3,800円〜。 WEBショップの他、KIKI(高知市)、chimny(香美市)、 Tom Tom雑貨(高知市大津)、ナゴミ・ド・ナチュレ(高知市九反田)などで 販売している。

心に灯が燈る  ━mow candleのつちいし

赤、青、黄色、緑に白。両手にすっぽり収まる、川にころがる小石のようなキャンドル。そっと火を灯すと中心部が溶けて空洞になり、溶けずに残ったロウがランプシェードのよう。火を点ける時間やタイミング、環境によってロウの溶け方が変わっていく。形を整えたり、そのままの溶け方を楽しんだり、自分なりに「育てていく」感覚もおもしろい。

休憩は工房前の河原で。童心に戻れる場所。

村山匡史さん(32)は、仁淀川中流域のいの町下八川に工房を構え、自然のできごとをキャンドルで表現している。「がけ崩れした岩から生えた植物の生命力とか、山に突き刺さった自分の背丈くらいの岩から漂うただならぬオーラとか」。  
 ある日、疲れて河原に出てぼーっとしていた時、ふと川の石が目についた。「あれ、石って、こんなに丸かったっけ?」。何万年も地層が堆積して、何かの拍子に崩れて、川を下って丸くなる。「石と同じような作り方をしたら、僕の気持ちが伝わるがやないろうか」。色とりどりのロウを柔らかくして高く積み重ね、固まったら荒く切り出す。それを溶けたロウの中に浸して、石のような丸さや滑らかさを表現した。  
 時折、キャンドルを作るきっかけになった友達の言葉を思い出す。「おまえ、こんなこと始めたがや。すごいねゃ!」「明日からあたしも頑張るき」。いつもの仲間との飲み会にさりげなくキャンドルを飾っただけなのに、こんなに感動してくれるなんてと驚いた。自らイベントを企画するようになり、巨大な木のキャンドルを飾ったり、花の形のキャンドルを水面に浮かべたり。意表を突く演出が評判になり、結婚式場や野外イベントに呼ばれることが増え、いつの間にかキャンドルが生活の柱になった。ゆらゆら揺れる火の光は、人に元気を灯してくれる。

mowcandleのHPはこちらから

伝統を受け継ぐクラフト

土佐和紙 和紙工芸ほづみのくじゃくだま

ガラスかな?と思って手に取ると、意外な軽さに驚いた。「和紙ジュエリー くじゃくだま」は、和紙を染め、重ねて糊で貼りあわせ、乾燥、カット、研磨という工程を経て作られる。ガラスと違って「落としても割れない」、紙なのに「水に溶けない」ところが特徴だ。   
 作り手の穂積利恵さんは、父からこの手法を受け継いだ。元々、土佐張子など民芸品の作り手だった父が、伝統の和紙で新しいものを、と平成元年に考案した。「紙の厚さや質感、色の染め方によって全く違う表情になるんです。同じものはひとつもない」。    
 かの紀貫之が奨励したという紙作りは、平安時代から高知が誇る産物。厚さや質感の様々な土佐和紙の織りなす模様に、思わず目を奪われる。

ここで買える! ほのまるハートアートギャラリー(香南市野市町西野1444)

竹細工 竹虎のランチボックス

不思議な模様のランチボックス。細い竹、太い竹が丁寧に編み込まれ、ふたと本体はピタッと合わさる。竹細工の中でも四角いものは難しいと言われ、熟練の職人にしか作れない形だ。  
 山間部がほとんどを占める高知県は、古くから木工や竹細工が盛ん。須崎市の竹虎は、明治27年創業。火で炙ると虎の模様が現れる「虎斑竹」を使った竹製品を作り続けている。  
 「お弁当箱の蓋をとると、竹のいい香り。いつものおにぎりがご馳走にみえた」とは愛用者の声。金属やプラスチック製品ではなく自然素材のものを使いたいという人に選ばれている。

ここで買える! 竹虎直営店(須崎市安和913-1)  インターネット店

土佐打刃物 ZAKURIの多目的ナイフ

農業や家庭菜園をする人が腰からぶら下げ、野菜の収穫や枝切りなどに超便利! もちろん荷物の紐や段ボール切りなど、なんでも使える多目的ナイフ。  
 「かつて麻袋を切るために使われたナイフを、現代風にアレンジしたら」。土佐刃物流通センターのスタッフと土佐打刃物の若手の鍛冶職人集団「ZAKURI」のメンバーがアイデアを出し、山﨑龍太郎さんが作っている。  
 土佐打刃物の歴史は、長宗我部元親の時代にさかのぼると言われていて、その後、林業や農林業用打刃物へと進化を続けてきた。土佐打刃物の特長は、日本刀と同じ高品質な刃物鋼を用いること。叩いて鍛えることにより、金属組織を微細化し、切味・耐摩耗性・刃の粘りを与えている。

ここで買える! 土佐刃物流通センター(香美市土佐山田町上改田109)  ZAKURI WEBサイト

土佐和紙、土佐打刃物は、長い歴史と高い技術を持ち、高知を代表する伝統工芸品です。その他、宝石珊瑚、フラフ・のぼり、土佐凧、尾戸・能茶山焼、内原野焼、土佐古代塗、まんじゅう笠、土佐つむぎ、佐川竹細工、虎斑竹細工、安芸國鬼瓦、土佐硯など、高知に伝わる工芸品はたくさんあります。  土佐に脈々と息づいてきた技術を引き継ぎながら、時代の動きや使い手の声に耳を澄ませる職人たち。型にはまらず、思いや感性を表現する若い作り手も入り交じり、クラフトは常に進化しています。

刻屋の名刺入れを扱う:川村雑貨店

店主:かわむらひとみさん
私は物語のある作品や、作家の世界観が溢れる 作品を見るのがとても好き。 日用品の雑貨店というより、個性的な作品の 展示場のようなお店づくりをしています。
川村雑貨店高知県須崎市赤崎町1-3-3 )

KOMOREBI Jewelryのブローチとmow candleのキャンドルを扱う:土佐和紙工芸村「クラウド」

店主:西川 美佐さん
レストランと宿泊施設を兼ねている道の駅なので、県内外さまざまな方が訪れます。目の前を流れる仁淀川流域の産品や、女性の目を引くような商品を選んでいます。
クラウド(高知県吾川郡いの町鹿敷1226 )

コトリコトリのはんこ:はんこのイラストや文字はもちろん、 持ち手が動物や人の形のものもあり、飾ってもかわいい。