有澤 綾さん 〜 すっぴんトーク 〜

杜氏であり代表取締役のご主人の右腕となり、「アリサワ酒造」を支える有澤綾さん。「男社会」と言われる中で、冬は自ら酒造りを買って出て、夏はその丹誠込めて作った酒を、売る。代表銘柄「文佳人」は新たな活路を見出して今や全国、そして世界へも…。守り続ける伝統、そして未来への展望など、その想いを聞いた。

データを共有し切磋琢磨
その中で見出した「独自の味」

高知の地酒といえば真っ先に「淡麗辛口」を想像するが、アリサワ酒造の代表銘柄「文佳人」はそれとは少し異なる。こだわっているのは「搾りたての瑞々しさと清涼感のある味わい」で、それは土佐酒の特徴に反しているのではなく、独自に見出したアリサワ酒造のスタイルだ。「先代は杜氏ではなく「社長」という立場だったので、主人は独学で酒造りを学びました。だから壁にぶつかる事や分からない事も多い。そんな時助けを求めるのが上東治彦先生なんです」。上東先生とは、高知県工業技術センターの醸造技術企画監 兼 食品開発課長で、アリサワ酒造でもメインに使っている「高知酵母」の生みの親。また、造りの時期になると18蔵元全てのもろみや麹を収集、その分析データをフィードバックし情報をシェアする方法を始めた人物ともあって、高知の酒造りには欠かせない存在だ。「私が嫁いできた頃には、すでにこの全蔵元がデータを共有するという体制はあったのでそれが当たり前だと思ってましたが、他県では聞いた事がありません。高知ならではの素晴らしい文化だと思います」。

昔ながらの製法を継承
全ては「美味しさ」のために

「おばけラベル」でお馴染みの「文佳人 夏純吟」は、夏を代表する商品。他にも山北みかんを使ったリキュールなども人気。

綾さんの現在の仕事は「文佳人」を全国に広める活動のほかにもう1つ、冬場には酒造りも手伝っている。全国を見れば女性の杜氏や蔵人は存在するものの、高知ではまだ珍しく、それはひとえに「男社会」と言われる所以の厳しさあってのこと。酒造りは通常10月後半から3月後半頃にかけて行われるが、アリサワ酒造の場合それよりもう少し長く、ゴールデンウィーク目前頃まで行われる。休みはほぼ無いに等しく、終わり時間が深夜になることも…。まさに過酷だ。しかもアリサワ酒造の場合、通常大吟醸クラスにしか用いない圧搾機「酒槽(さかふね)」を全ての酒造りに使用、さらに瓶詰めした生酒を一本一本手で並べて瓶に火入れしたものを急冷し、氷温の冷凍庫に保管と、時間も手間も格段にかかる昔ながらの製法を継承している。「設備が古いだけなんです」と綾さんは笑うが、これによって「文佳人」の変わらない美味しさは守られているのだ。こうして丹誠込めて造り、心を込めて売る「文佳人」は、全国にファンを持つようになり、そして海を超えて世界にまで進出していく。

油圧式の圧搾機「酒槽(さかふね)」や、昭和30年代の表記がされたタンクなど、随所に歴史が感じられる。

もっと多くの人に伝えたい
東へ西へ、そして「世界」を行脚

搾り立ての生酒を65℃の湯煎にかける火入れの作業。整列している瓶は全て手で並べ、手で捌ける。冷気に立ち上る濃い湯気が冬の寒さを物語る。

2017年にフランスで開かれた日本酒コンクールで、日本全国から出品された550の銘柄の中から「文佳人 純米酒」がなんとトップ10に選出! 食文化が変わりつつあるフランスで、日本酒が今改めて注目されているのだそう。「現地の方からはフルーツの香りに例えられたり、日本には無い評価を受けてとても新鮮でした。まだまだ先の事にはなりそうですが、ヨーロッパ進出も実現してみたいですね」。さらに全国の酒蔵で働く女性たちから成る「蔵女性の会」に所属し、女性ならではの悩みや想いを分かち合い、情報交換し、切磋琢磨している。また四国の酒を全国に広めるイベントを立ち上げ、2018年で3回目の開催を迎えるなど、とにかくお酒に関すること、「文佳人」を、高知の酒を、四国の酒を、広く広める事には枚挙にいとまがない。「日本酒は美味しいし、食べ物にも合うし、お肌にもいい! 今、地酒は最高に美味しいと思っています。これからも美味しい日本酒を造り続けるので、より多くの方に楽しんでもらいたいです」。どっぷり惚れ込んだ日本酒の魅力をより多くの人に伝えるべく、今日も各地を行脚している。


FM高知で毎週金曜放送中のラジオ「Myスタイル すっぴんトーク」に出演した際のスタジオの様子。有澤さんの出演回は、7/27、8/3の2週に渡ってオンエア。