04. 軒をシェアするシェア酒場

大型店舗の軒をシェアし、数十軒もの店が所狭しと並ぶここは、土佐の食文化が溢れるシェア酒場。大皿を華やかに彩る皿鉢料理のごとく、酔っぱらいの華が咲き誇る!

高知の食文化の拠点として…

ひろめ市場週末ともなれば県内外より押し寄せる人で人口密度が急上昇。空席待ち、相席は当たり前で、席もシェアするが、料理や酒もシェアして酒を酌み交わす。そんな光景がすっかり定着したひろめ市場だが、「創業当初は小洒落たステンレス製の洋風のテーブルとイスが並んじょった」。教えてくれたのは、創業メンバーの一人でもある「くうてや」の店主・山本さん。「当初、高知の食文化を発信する場所にしようと始まったものの…」と山本さんは続けた。聞けば、開店より1年が過ぎた頃から客足が減り、当初の想いであった「高知の食文化」を振り返える時期を得た。その結果、市場内に置かれていたテーブルとイスを一掃、ステンレス製から今は馴染みの木製スタイルに。土佐のお客のようにゆっくりお酒を飲めるスタイルへと進化。その決断が功を奏した…。ひろめ市場は再び賑わいを取り戻し、当初5年間の期間契約でスタートした計画も、10年・20年と順調に時を重ねた。

土佐人はお接待が好き

「まぁ飲んでいきや」「まぁ食べてみいや」と土佐弁で県外客をお接待し、見知らぬ客同士が会話を楽しむひろめスタイルは、今やガイドブックを通して県外へ浸透。お接待好きな高知の食文化は、着々と広がりをみせている。それを物語るこんなエピソードまで。「隣に座った県外のカップルに『これ美味しいよ』といつもの調子で料理や酒をすすめたら、『高知ではこんなことがあるとガイドブックに書いてたんですけど本当だったんですね!』と目を丸くして驚かれた」と、居合わせたお客さんの体験談。開店当初から店を構え、数知れないほどのお接待を目にしてきた「やいろ亭」の嶋崎さんも口を揃える。「県内のお客さんが『美味しい店教えちゃお』って言うてうちの店まで連れて来てくれたかと思うたら、身銭をきってごちそうする。そんな光景はしょっちゅう」と苦笑。羽振りの良い土佐人は、お酒が入るとついつい初対面の人にご馳走してしまう。「宵越しの金は持たない」主義まで、良くも悪くも伝統文化。しっかりここでも継承されている。そんな高知ペースに巻き込まれ、帰途に着く頃には二日酔いのお土産付き、なんてこともよく聞く話。それでも「また来たい!」と言わせるのが、ひろめ市場、いや酒國土佐の底力。

ひろめ市場

進化するシェア文化

創業当初の「高知の食文化を発信したい」という想いを受け継ぎ、今年「ひろめ市場」は創業より20周年。席をシェアし、料理をシェアし、杯をシェアする酒國土佐のシェア文化はここにもしっかり息づいている。旅人をもてなすお遍路文化、杯を酌み交わす土佐酒文化、料理を囲んでおしゃべりに華を咲かせた皿鉢文化、宴を心から楽しんだお客文化。そして、このひろめ市場での営みもまた、「ひろめ文化」として昔文化の仲間入りを果たすときがいつしか訪れることだろう。今、全国を賑わす話題のシェア文化、実は高知には伝統文化として古くから根づいていた。

語り継ぐ土佐の伝統食をシェアした皿鉢文化

自然の食材を自然風景のごとくダイナミックに盛りつける皿鉢料理は土佐のお客(宴席)の花形。皿鉢を囲むと誰しも笑顔になる。

皿鉢料理は老若男女誰もを喜ばせた最強のコミュニケーションツール

土佐伝統食研究会/松﨑 淳子先生

セレモニーが終わると早々にお銚子と杯を持って歩き回り、席も杯もシェアされる土佐のお客(宴席)。飛び入り客はつきもののこの宴には、どの席に行っても食べられる皿鉢料理が、せっせとお膳を運ぶ本膳式とは違って重宝される。つまみも甘味も一気に盛りつけられるから、お客の最中に運ぶのは追加のお酒のみ。この皿鉢スタイルがゆえに、度重なる来客でも女性陣は余裕綽々で客人を出迎えられた…。皿鉢宴席が根づいたのは明治時代。大きなサバの姿寿司や羊羹などを高級な大皿に頭高く盛りつけ皿鉢料理は登場した。「派手好き、新しい物好きな高知県民は、杯をシェアするように皆で自由につつけるスタイルがぴったり合ったんです」と土佐の伝統料理家の松﨑先生。当初は、「器用料理人」や「汁組」と呼ばれる男性が仕切っていた時代もあったが、時代を経てメインは女性へ。やがて母の姿を見て娘へ受け継がれるスタイルへと進化した。「ハレの日を彩るために一から手作りする家庭は少なくなりましたが、美味しい食事を囲むことで生まれる人と人とのコミュニケーションこそが本当の豊かさ。知らない者同士が席や杯、料理を囲むひろめ市場もまた、皿鉢文化の醍醐味が受け継がれる大切な場所ですね」と松﨑先生は語る。

皿鉢料理の写真は、10月に発行の「土佐寿司の本」からの引用。