02. 宿をシェアするゲストハウス

世界各国・老若男女、旅のひとときをシェアすれば、旅の想い出が溢れ出す。寝床をシェアし、旅人を労い、語らい、もてなす。それはまるでお遍路宿のごとし…

女将が高知の旅を手厚くお接待。
お遍路さんもバックパッカーも家族のように時をシェア!

夏はお風呂上がりに縁側で一杯、冬は鍋を囲んでこたつで乾杯…
ここ「かつおゲストハウス」は、居合わせたゲストがまるで家族のように時をシェアする民泊風の宿。「高知大使館」をコンセプトに、女将が旅のコンシェルジュとなって日夜、旅人をお接待。年齢、国籍、趣味趣向、多岐に渡るニーズとTPOに応じて旅をアテンドする。その営みは、昔ながらのお遍路文化を受け継いでいるかのようだ。ここ数年増えているという外国人お遍路さんには、自身のお遍路経験も生かし、札所間の距離感や通夜堂の情報、民宿予約のお手伝いまでをもサポート。その手厚いもてなしに、居心地が良すぎてゲストが移住する例も少なくない。「お遍路さんが宿泊する夜は、四国のお遍路文化を他のゲストさんに伝える学びの夜になるんですよ」と女将。外国人のお遍路さんが日本人の若者に遍路文化を語る、そんな不思議な光景が見られることも多い。そうした異文化交流が、お互いの世界観を広げ、日常に変化をもたらし、SNSで繋がりが全国・全世界、色んな分野に友達の輪を広げる。そこには、昔は予想だにしなかった、世界がネットで繋がる今だからこそ成し得た、新たな文化継承の姿があった。

まるで遍路道のように、人と人が出会い
繋がることで新たな価値観に出会う…

2018年2月、高知市に誕生した「とまり木」は、宿泊利用者をもてなすだけのゲストハウスにとどまらない。併設するカフェバーで様々なイベントを常時行なう「新しい発見や繋がりが生まれる場所」。年齢も国籍も職業も違う多様な人がそこには集う。「普段はなかなか出会えないような人たちが集まるのがゲストハウス。ホテルよりも、人と人の距離がひとつ近くなる感じですね。そんな場所ならではのイベントをみんなで企画しています」とオーナーの篠田さん。例えば、脱サラをした教師や、企業の社長など、県内外で働くユニークな人を招いてトークイベントを開催したり、時には、DIYのイベントを企画して職人さんの技をシェアしたり。菜園場商店街で共に営むお店と食材や知恵をシェアしてホットサンドを開発したり…。それぞれがアイディアや技、人脈などをシェアすることで、共有した人たちのあいだに変化が生まれる。そんな営み中、旅途中の一期一会もあれば、県民同士が繋がり新しい取り組みが生まれる時もある。まるで遍路道のように、人と人が出会い、言葉を掛け合うことで、新たな何かに気付いていく。ここはそんな「きっかけ」づくりの場所だ。

とまり木

語り継ぐ土佐の伝統民家をシェアしたお遍路文化

情報をシェアし、想いを共有し、同じ目的地へ向かう四国霊場八十八ヶ所巡りを通して出会った古き良きシェア文化。

人と人を繋げ、情報を共有することでもてなす「お遍路宿」

太田旅館 女将/太田 幸恵さん

 創業から150年以上もの間、室戸市室津を訪れる旅人たちを迎え入れてきた「太田旅館」は、第25番札所「津照寺」のふもとに位置する。お遍路たちは皆それぞれの想いを胸に宿を訪れ、只々疲れを癒すことに徹する者もいれば、女将や他の宿泊客との交流を楽しむ者もいたり、過ごし方は十人十色。「いろんな人がきます。そしていろんなストーリーと出会います」と語る女将の口からは、次々とエピソードが飛び出した。「ある日、お遍路をリタイヤしかけた女の子が、居合わせた男性から『絶対このまま歩き続けなさい! きっと良いことが一つはあるから』と励まされ歩き続けることを決意してね」、またある日には「先達さんが『この先は自動販売機が無いから飲み物は持参して』とアドバイスする場面もよく見かけた」。そこには泊まったお遍路の数だけストーリーが存在する。女将自身がお遍路との交流の中で学んだことも数知れない。使い勝手の良い雨合羽メーカーに、この先にある安くて質の良い宿の情報…。そうしてお遍路から仕入れた情報は、女将から次のお遍路へと伝わる。「お遍路宿」はただの休息地ではなく、情報を、そして想いを共有する架け橋となってきた。

幸恵さんの祖父・太田栗太郎氏の代から続く老舗旅館。民宿のようなアットホームな雰囲気が人気。