作家・宮尾登美子も愛した紬の着物の原点を求めて。
手紡ぎ、手染め、手織り。昔ながらの自然製法に出会う。
日本の伝統技術で糸を紡いで染めて織る 染織作家・山本眞壽さんの染織工房へ
「着物は日本の民族衣装であり日本のプライド、胸を張って着て欲しい」、そう言って工房を案内してくれたのは、染織作家の山本眞壽さん。高知市といの町に染織工房を構える数少ない染織作家の一人だ。高知に生育する四季折々の草木で染めた絹糸を用い、高知の自然や心象風景をイメージして織り上げる作品は、着物に仕立てることで一層その魅力を増す。そんな伝統的な自然製法で創り上げた作品の数々は、世界各地で開催した着物展で多くの感動を集めている。 山本さんが染織を始めたのは、40年ほど前。はた織りから始まった創作活動は、染色、染料の採取へと幅を広げ、やがて自ら養蚕を手掛けるように。「草木染めは自然由来の温かさを感じることができます。色に深さがあり、時を超え、色が移ろったとしても、それなりの色合いと色の調和が保たれ、しっくりとなじむ色に育つんですよね。そうして草木染めをしているうちに、今度は糸から紡ぎたいと思うようになって」。日ごとに増していった創作意欲は、自ら蚕を飼い、その蚕から糸を紡ぐまでになっていた。山本さんが紡ぎ出す絹糸は、既製品には表せない美しい光沢と柔らかい手触りを実現し、多くの注目を集めた。日展では11回連続で入選、作品の一つは高校国語の教科書の表紙を飾り、ついに天皇皇后両陛下をはじめ、各宮家への献上品を制作するまでに。
そうして国内で活躍する中、今度は「日本の着物や養蚕の文化を継承する道を探りたい」と日本のプライドを背負って有志とともに海外へ。平成12年に招かれた、ドイツのハンブルク民族学博物館の企画展では桜などで染めた50点の着物を披露。それが呼び水となり、着物展は世界各国の美術館・博物館でも行われた。「ヨーロッパをはじめ、アフリカのタンザニアなど20数都市に行きましたが、着物はたくさんの都市でとても高く評価されました。着物は洋服と違って直線裁ちなので、着る人の体型を選ばない日本ならではの民族衣装。現地の方に即興で着付けて差し上げると、みなさんとても喜ばれましたね」と誇らしそうに当時を振り返る。日本の伝統技術を駆使して織り上げた渾身作は、現地の人々から予想以上の共感を得、「ヴォーグ」「エル」といった世界的なファッション誌をはじめ、現地の新聞など、さまざまなメディアで取り上げられ、現在もデンマーク王立工芸博物館に収蔵されている。
それから10年経った今では、染織作家として創作活動を続ける傍ら、「日本の伝統文化を後世に伝えたい」と、小中高等学校などを対象に課外授業を受け持ち、未来を担う子どもたちに、染織や養蚕の面白さを伝えている。「昔は養蚕というと、日本を代表する産業の一つでした。今は着物文化が下火になって、養蚕を行う人が減ってしまったけれど、これはなくしてはいけない日本の伝統文化です。それを次世代につなぐのが私の使命と思っています」。熱心に活動を続けてきた山本さんは、平成30年に文部科学大臣より「地方教育行政功労者」として表彰を受けた。
養蚕・染織の工程をのぞいてみよう!
小中高等学校を対象に行う課外授業では、蚕から糸を紡ぐ体験や、草木染め、はた織り体験などを通して、次世代に日本の伝統を伝えている。また、いの町に構える染織工房では、はた織り体験を受付中。