明治、大正、昭和、 平成を経て 受け継がれること6代
創業1891年(明治24年)、美馬家の家業として代々受け継がれ、128年の歴史を刻んできた老舗旅館。四万十川ブーム、お遍路ブームと時代のニーズに応え、窪川の町宿として栄えた。館内には、作家・林芙美子や、元首相・吉田茂など、数々の文人や財界人らの直筆の書が残されており、長い歴史を重ねてきた貫禄がそこかしこに。床材は栗の木、壁は土壁、天井は1本の木からわずかしか採れない高価な「柾目」の木材を、要所には四角く特殊加工を施した竹の柱を採用。
窓ガラスや障子の腰には、今では入手困難なモザイクガラスが張り巡らされ、建築当初の贅を尽くした佇まいが残されている。創業当初の明治の建物は解体され、現在の建物は昭和初期以降のものとなるが、明治時代より美馬家に受け継がれた先代らの審美眼が、家具、照明、掛け軸など館内の随所で生きている。
「ガラス1枚割れても買い替えの出来ない貴重なものばかり」という若女将の言葉通り、今は無き職人技を感じる建築材が至る所で風格を漂わす。
台風に耐え80年余り 室戸岬の海岸に建つ 奇跡のホテル
室戸に甚大な被害をもたらした2度の室戸台風にも倒れず、80年余り。周りの建物が倒壊する中、被害をまぬがれ、その命を繋いできた奇跡のホテル。室戸岬が国定公園に指定される30年程前よりこの地で歴史を刻み、窓から溢れんばかりの絶景を宿泊客に届けてきている。
建築当初の経緯は諸説あるものの、資産家の別荘として建てられ、ある文書では野村茂久馬がホテルとして開業したと記述されている。昭和中期には筆山荘の別館として栄えた時代もあった。
現在、ホテルを営むのは、「もっと多くの観光客に室戸へ来て欲しい」「美しい景色と美味しい料理を届けたい」との思いで引き継いだ千頭夫妻。ホテルの敷地そのものが国定公園であるため、持ち主であろうと庭の草木一つ無断で手入れできない環境下において、近年の度重なる台風の上陸と、苦労も耐えないが、ホテルへの思い入れはひとしお。
「多くの室戸市民の思い出が染み付いたホテルそのものの息吹が、お客さんを温かく出迎えているように思うんです」とその魅力を教えてくれた。