土佐の名建築【旧病院】〜欧風文化に 憧れた 大正時代へ回帰〜

大正時代の趣を残し 歯科医院から結婚式場へ 新たな使命を宿して

 高知県歯科医師会の先駆者として知られる織田信福が高知初の歯科医院として「織田歯科医院」を開業したのは1925年(大正14年)のこと。木造が立ち並ぶ高知の街に初めて、近代建築様式「鉄筋コンクリート造」を取り入れた建築物が誕生。正面中央にはバロック風の装飾壁を立ち上げ、塀も同様の意匠で装飾豊かに仕上げた。それから90年余り、第二次世界大戦、南海大震災を経ても尚、威風堂々。年月を重ねても倒壊することなく生き続け、4年前、「salon de LES PLUS」へと進化を遂げた。

新築当時の織田歯科医院。洋館が立ち並ぶ神戸や横浜の異人館さながら。長きに渡り地域に愛された。

新たな息吹を吹き込んだのは「そばを通るたび、建物の持つ風格を感じていました。こんな素敵な建物で結婚式をコーディネートできたらと憧れを持っていたんです」と語る同サロン代表の山縣さん。現存の趣を最大限に生かし、歯科医院からアンティーク調の式場へとリニューアル。歴史在る建物で昔ながらの婚礼の魅力を大切にした、1日1組限定のオリジナルウェディングを提案している。2017年には登録有形文化財の認定を受け、建物の価値を再認識する機会を得た。


洋館風医院と 純和風建築が 大正ロマンの時へ誘う

 馬路の魚梁瀬をはじめ、周辺の森林から採れる木材の集散地として、多くの商人が訪れ栄えた安田町には、当時の趣を感じる建築物が町の随所で見受けられる。その中でも、登録有形文化財に認定される「安田まちなみ交流館・和」は、和風建築と洋風建築が織りなす大正ロマンな佇まいに見惚れる。これは、「安田町の歴史が詰まったこの建物を、町内外の人達と繋がる交流拠点にしよう」と誕生した町営の施設。その思いに賛同した持ち主の寄贈によって復原工事が着工され、2010年に完成。

修復前の2軒。昔の病院の面影を残した洋風造りの「市川医院」と、土佐の近代和風建築の特徴が伺える「柏原邸」が軒を並べる。

外観に洋風医院建築様式を取り入れた「旧市川医院」と、魚梁瀬の天然木材と土佐漆喰をふんだんにあしらった「旧柏原邸」、2つの建物が一体となり類稀なる景観を創り出している。また、建物の各所で見られる匠の職人技は、既に継承が途絶えたものも多く、壊れたら修復不可能。「この施設は安田町が商人の町として栄えた当時の様子や建築技術を残した貴重な宝物。この施設の魅力を多くの人に感じてもらいたい」と支援員を始め、多くの町民らの支えによって大切に守られている。