時代と共に変わる商人の町を案内人と歩いてみた。
1970年に開業してから宿毛駅ができるまでの30年近く、高知の西の終着駅だった中村駅。開業当時は古いSLを利用したホテルもでき、駅前の開発が相次いで行われた。
「土佐の小京都」と呼ばれ独特の「幡多文化」が根付いてきた中村の町は、通りや商店街にそのカラーを残している。
中村で生まれ青春時代を過ごした寺尾光加さん(32)の案内で町を歩いてみた。
案内人 イチジクキカクデザイナー 寺尾 光加さん
大正時代にできた赤鉄橋
私が生まれ育った大橋通一丁目。橋がかかった大正時代から、ここは橋へと続く通りで、中村のシンボル・赤鉄橋のたもとです。100歳になるおばあちゃんに聞くと、ここは埋め立て地で、かつては「築地(ついぢ)」と呼ばれていました。堤防と道路ができたのはずっと後です。
去年、この堤防で花火を見ましたよ。
四万十川の上流の集落から筏(いかだ)に載せて木や炭を運んでいた時代は、その木炭などを買う代わりに食料品や日用品を売ってたんでしょう。今堤防がある辺りに、昔は茶屋や雑貨屋、材木屋に宿屋、川沿いにお店がたくさんあったと聞きました。大橋通北の、百笑(どうめき)町には船着き場があったとか。
今は住宅街になっているんですね。他に思い出の場所はありますか?
小学校の通学路だった京町は、醤油屋さんや染物屋さんがある職人の町。一条通は、お魚屋さんやお肉屋さん、和菓子屋さんに花屋さんなどもある町の台所。天神橋は、おもちゃ屋さんや本屋さん、夏は土曜夜市もやってる子どもたちのわくわくゾーン。中高生向けのセレクトショップや、叔母の画廊もあったので、学校帰りによく遊びに行きました。
一條神社の下には「てん」というスーパーがあって、よくお菓子を買いに行ったなぁ。あらゆる町につながる大橋通は、人が動く動脈みたいな通りかな。
京町通り
スーパー「てん」のなごり?
レトロな喫茶店の看板
山を崩してできた役場
今は四万十市ですが、1889年に中村が発足、1954年に中村市になりました。新しい庁舎を建てるために、大橋通に隣接していた天神山を切り崩したと聞きました。山に祀られていた天神様は一條神社に移されたそうで、役所の駐車場にはお地蔵さんが祀られているんです。
役所の駐車場を下りていくと、太陽館があります。昔は中村に4軒の映画館があったそうですが、畳の席もある大きな映画館で、最後まであったのがここ。中学生の頃、ここで『タイタニック』を観たのを思い出します。
太陽館
市役所の駐車場にあるお地蔵さん
念願のアーケード完成
大正時代には、天神橋商店街の今はローソンがある辺りに橋があって、深い溝に水が流れていたそう。雨水と汚水のマンホールが続いてるあたりかな。
今あるガス屋さんは、もとは炭屋さん。上流から運ばれた木炭を、下田の港で船に載せて大阪に運んでいました。燃料が薪になり、灯油やガスになりましたが、今も燃料屋さんは下田から出てきた人が多いと聞きます。
居酒屋やスナックの看板、書体がおもしろい。藤色のカラーが目立ちますね。
商店街の周りには、喫茶店や居酒屋、スナックがたくさん。特に栄町(さかえまち)商店街の9割ほどが飲食店で、北海道のすすきのに匹敵するという人もいます。
天神橋商店街:私の父が子どもの頃、昭和の初めは、ここに天神橋という橋があったというのが名前の由来です。天神橋商店街の店主たちが資金を出しあって、1969年に中村に初めてのアーケードができました。私たち息子世代が商店街に戻ってから1992年に開閉式に建て直して、アーケードも2代目です。 (「寝装の太田」の大田文雄さん(58))
2011年に実施された四万十市商工業調査(中村商工会議所調べ)によると、四万十市の飲食業の44.5%がバーや居酒屋など夜間営業する飲食店。四万十市全事業者の7.7%に相当し、経済センサス(2009年基礎調査)のキャバレー、バー、ナイトクラブの全国平均(4.4%)と比べてもかなり多い。
郊外へ広がる新しい町
ほとんど畑だった場所に中村駅が開業して、駅周辺がにぎわうようになりました。
駅前の幹線道路、広いですね。
昔は線路に沿って歩いて駅と市街地を行き来していました。昭和の終わり頃になって中村スーパーが百貨店「さつき」を開業し、愛媛資本のスーパー「フジ」も参入。四万十川河口側に宿毛に通じる橋が渡り、「右山(うやま)」に店やホテルなどができました。対岸の「具同(ぐどう)」には、マクドナルドやツタヤ、ユニクロなど、全国区のチェーン店が進出しました。2009年に中村宿毛道路が開通し、「古津賀(こつか)」に商業施設が集まってきています。
変化はあるけど、町のカラーをしっかり感じます。
毎年7月の終わりの市民祭で地区ごとに提灯台を出すんですが、「うちの地区が一番」っていうプライドを感じます。私たち大橋通は生バンドが売りで、フジロックフェスに出演経験のある若い人たちが「提灯台の唄」を演奏して、お祭りを盛り上げるんです。提灯台のパレードは夏の始まりの合図です。
2013年、中村の町を舞台にしたドラマ『遅咲きのヒマワリ』が放映され、観光客がどっと詰めかける「四万十フィーバー」がおこりました。当時、天神橋には空き店舗が目立っていたのですが、チャレンジショップ事業もスタートし、今では11店のシャッターが開きました。楽器店、自転車店、ミシン店など、若い経営者の店も増え、にぎわいを取り戻してきています。
中村駅
次は~、東宿毛駅~~!