「土佐の料理はお酢ぜめ」。高知出身の漫画家はらたいらさんはこう残している。柚の酢の効いた田舎寿司、リュウキュウの酢あえ、お鍋のポン酢……確かに土佐の料理には酢が欠かせず、2003年頃まで食酢の購入量は日本一。さらに、家々には様々な種類の柑橘の木が植えられ、季節に合わせて数々の酢みかんを上手に使う。
[8月] ぶしゅかん【餅柚(もちゆ)】
夏に出回る酢みかんの走りで、メヂカの※新子には欠かせない。玉が青いうちから果汁が入り、独特の香りとマイルドな酸味が特徴。皮を刻んだり、おろし金ですりおろして薬味としても使われる。
新子の刺身にはぶしゅかんが合う
※新子:高知で新子(しんこ)・新前(しんまい)といえば、マグロのヨコ、ヒラソウダガツオ(スマ)のシロス、ソウダガツオ(メヂカ)のクロス、特にロウソクと呼ばれる親指の太さほどのメヂカは重宝される。足が速く、漁師町だけで食べられるごちそう。
[10月] 直七【田熊スダチ】
広島県因島の田熊町で生まれ、魚商人の直七が魚と一緒に売り歩き、おいしいとすすめたのが名前の由来。宿毛市や四万十市では「ゆうこ」とも呼ばれた。クセのない香りと上品な酸が特徴で、焼き魚にかけたり、姿寿司の魚を締めたりするのに使われてきた。
鯛のカルパッチョに直七のさわやかさをプラス
[11月] ゆず
高知県が生産量日本一を誇る柑橘。中国原産で、飛鳥・奈良時代に京都に伝わったとされる。高知県の山間部に多いことから、平家の落人によって持ち込まれたという説もある。シャープな酸と独特な香りは、時代を超えて人々を魅了し続けている。
高知の寿司にはこじゃんと柚の酢を効かせて
[12月] だいだい
実が熟しても木から落ちず、花が咲き、新しい実が代々なることが名前の由来。縁起物(えんぎもの)として、正月には注連縄に飾られる。香りは控えめだが酢の質がよく、玉も大きく果汁がたくさんとれることから、料亭などで重宝されてきた。
マグロのカマトロにはだいだい酢のポン酢が※ぼっちり
この他にも花柚や酢王(すおう)など様々な酢みかんがある。
column 01 酢みかんの見分け方
秋頃になると緑色の酢みかんが相次いで登場。一見違いがわかりにくい酢みかん、実は見分け方があるんです。
直七:まんじゅうのような扁平型で玉も大きい
ぶしゅかん:まん丸い形で小ぶり
青ゆず:ひっくり返すとおへそがある
column 02 酢みかん七変化
食卓を彩る酢みかんは楽しみ方もたくさん。
❶ そのまま絞って
刺身、冷や奴、揚げ物、なんでも合う! 酸味と香りが食欲を引き立たせます。
❷ 野菜や魚の漬け用の酢、寿司酢として
みりんや醤油、砂糖を少し混ぜて、醸造酢の代わりに素材をつけ込む酢として。
❸ 皮を削る
おろし金で皮を粉砕すると、インパクトの強い香りが楽しめます。
❹ 皮を煮込んで
マーマレードやゆず味噌、ひめいちの辛子煮など、皮は料理の具材になるんです。
❺ 皮をスライス
1〜2mmほどにスライスすると、刺身やサラダ、ちらし寿司に、香りと食感を与えます。
❻ お酒の割材として
絞った汁にはちみつを少々、ハイボールやサワーの割材として大活躍。
❼ 器として
中身をきれいにくりぬけば、香り高い蒸し料理の器に。
発掘!土佐弁「さしすせそ」
「酢がきいちゅう」
きりっとして才智がある。奸智にたける。一癖ある。
[用例]あの娘は酢がきいちゅうきに、一筋縄ではいかん。
[訳]あの娘は才智があるので生半可ではいかん。