「地」喫茶の一日
朝も昼も夜も、高知の暮らしに欠かせない「生活の一部」
地元住民の憩いの場であるなじみの喫茶店には、その土地ならではのひと時がある。川に、山に、海に。それぞれの「地」喫茶を訪ねてみた。
川の景色もそっちのけ!
四万十町
喫茶 橋 ●昭和56年創業
穏やかな店主の人柄に 地元の常連客が集う
四国山地の奥地から流れてくる梼原(ゆすはら)川が、雄大な四万十川に合流するまち、四万十町大正地域。川沿いにたたずむ「喫茶 橋」の窓辺のテーブル席からは、釣り客が清流に竿を向けるのどかな風景を眺めることができる。
朝の憩いの時間、そんな景色をよそに、地元の常連客が腰掛けるのは、キッチンで仕事をしている店主にいちばん近いテーブル。「とみかさん!」と呼ばれるのは、店主の中平都美香(なかひらとみか)さんだ。「ここは地域の方々が集まってにぎわう交流の場。シーズンになると、夜のうちに火振り漁で取れたアユを持ってきてくださることもあるんですよ」。
窓から望むのは、店名の由来でもある「大正橋」。かつてはこの橋のたもとに店を構えていたという。移転後も地元の人たちに愛され続けている。
海の漁師が今日も集う
室戸市
喫茶 アロエ ●昭和55年創業
日替わりランチには 地元漁師が差し入れた鮮魚を
太平洋が目の前に広がる、室戸市元(もと)地区の「喫茶 アロエ」。店主の松島登世(まつしまとせ)さんは「地元で働きたい」と、21歳で入店。それ以来、30年にわたって店を支え続け、平成29年に店主を引き継いだ。
長年の常連客には、すぐそばの「行当(ぎょうとう)漁港」のサンゴ漁師をはじめ、サバやアジ、イサキなど、取れたての鮮魚を持ってきてくれる地元の漁師たちの姿も。元サンゴ漁師という松島さんのご主人も、自ら釣ったカマスを差し入れ。それらの鮮魚は、日替わりランチとして提供されることもあるのだとか。夜まで頑張って働く人に食べてもらいたかったけん。
市の後押しもあり、国定公園内に開店した「アロエ」。その店名は、潮風の強い海辺でもたくましく育つアロエの花にちなんで名付けられたという。
山あいに温かい灯り
津野町
喫茶 ブルーメ ●昭和63年創業
山間部の住民たちが集う 大切な憩いの場
高知市を起点に山あいを抜けて愛媛県へとつながる、国道197号沿いの「喫茶 ブルーメ」。店主の西森由美(にしもりゆみ)さんは、義母からこの店を引き継いで今年で5年目。常連さんが集まるテーブルを見て「今日はあの人来んねえ、あとで連絡してみようか」と笑う。
日中は、作業員や運転手たちがひと息つく休憩どころとしてにぎわうが、夜になると「これからみんなで行ってもえいろうか?」と、地元の人から電話が入ることも。常連さんたちの二次会のために、21時から店を開けることもあるという。真っ暗な山あいに、喫茶の灯りが和やかにともっている。
朝、それぞれに店へやってきた常連客たちが、ひとつのテーブルに集まってモーニングを味わうことも、この店に広がるいつもの光景だ。
①喫茶 橋(四万十町)
お客さんに合わせてどんどん早くなる開店時間
朝6時30分から開店している「喫茶 橋」だが、実は数十年前までは開店時間は7時であった。店主の中平さん曰く「常連さんの来店に合わせてお店を開けていたら、いつの間にかどんどん開店時間が早くなっていきました。」とのことで、6時30分には既に5人ほどの来店があるのだそう。早い時は6時15分頃に来店される方も! 開店時間の早まりは未だに続いているのかもしれない。
②喫茶 ブルーメ(津野町)
「お腹いっぱい食べてほしい」良心価格の満腹朝ご飯
良心的な価格でボリューム満点なモーニングが人気の「喫茶 ブルーメ」は、5年前に店主の西森さんが義母からお店を受け継ぎ営業。世代交代後も「お客様にお腹いっぱい食べてほしい」という思いを引き継ぎモーニングを提供している。また、「お客様に喜んでもらえるから」という理由でモーニングはなんと閉店の13時30分まで注文可能。どこまでもお客様思いなその姿勢が、地元民に長く愛されている所以なのだ。