高知県の歴史に触れる県史特集「資料調査にみる 本当の土佐史」

今回のテーマは、今に残された古文書の解読作業。 県史編さんの基礎となる資料の収集や解読の現場には 学生たちが中心となる「歴史資料調査隊」も参加。 その養成講座で、「本当の土佐史」が垣間見えた。


高知県立高知城歴史博物館の一室で行われた、「史料解読」の養成講座の様子。渡部部会長(中央左)が指導しながら、学生たちが実際の古文書を読み解き、研究資料として誰もが利用できる状態に整えていく。

膨大な数の歴史資料に 目を向けていくのは
調査隊の学生たち

県史編さんの土台となるもの。それは、今に残された歴史資料だ。県史編さん室では、日々古文書等の資料を画像データとして収集・保存しており、その数は数十万点にも及ぶ。しかし資料は、ただ保存されればいいわけではない。いつ、だれが、何について書き残したものなのか、ひとつひとつの内容が解読され、分類・整理され、リスト化されることではじめて、それらを基礎とした歴史研究を始めることができる。  今回、紹介するのは、こうした手のかかる膨大な作業を日々行っている「歴史資料調査隊」。そこで中心となっているのは、若い学生たちだ。調査隊の養成講座も行われており、多くの学生たちが古文書等の画像を撮影する「資料撮影」や、過去の体験を記録する「聞き書き・動画撮影」などを学んできた。今回、近世部会の渡部部会長が講師を務める「史料解読」の講座を訪ねると、江戸時代の実際の古文書を手に取りながら、資料の解読に初めて取り組む学生たちの姿があった。

養成講座に参加した学生たち。博物館などの学芸員を目指している参加者もあった。

古文書を読み解き 地道に整理していく 県史編さんの現場

 当日の講座で学生たちが解読していたのは、武市半平太の生誕地としても知られる、長岡郡仁井田村吹井(ふけい、現・高知市仁井田吹井)の地主の家に残されていた借用証の類。主に村人の借金にまつわる記録だが、その人が困窮にいたった理由などに、当時の地域情勢を解明 するヒントが残されている可能性もある。文書の一点ごとに「史料調査カード」を作成していくが、文書を読み解き、様式や保存状態を判断し、記入するための専門知識が必要な作業。資料としてすべての情報を共有するため、例えば防虫剤として銀杏の葉が一枚封入されていたら、そのことも記入する。「資料調査に必要な注意深さを養うには、とにかく多くの古文書を読み込むこと」と渡部部会長は言う。

「くずし字」で書かれている江戸時代の古文書。くずし字に関する辞典はもちろん、当時の地名などを参照しながら、書かれている内容を解読していく。読み解くのは多くの経験が必要だ。

生きた土佐人に触れる リアルな体験が 次の土佐人を育成する

有名な武将の手紙とかだけでなく、名もなき人が残した地方(じかた)文書を読めてはじめて一人前」と教えられてきたのは、学生時代の渡部部会長も同じ。とても地道で根気がいることだがそこにこそ、実際に生きた土佐人に触れるチャンスがある。「古文書を一枚一枚読むことで自分のなかに形成された歴史像は、自分で確かめたリアルな土佐史。『誰がどんな借金をしたのか』という、些細に感じられることも、まぎれもなく当時の人々の営みが伝わる事実。学生たちにはぜひ、そのリアル感に触れてほしいですね」。資料を読み解き歴史を捉えることができる人材の育成も、県史編さん事業の目的のひとつ。それは今日も、資料調査の現場で積み重ねられている。

参加者には「実家にある古文書を読んでみたい」という高い意欲を持った学生も。