紙づくりの伝統技術を生かした製品が、日常の中に数多く溶け込んでいる。
土佐和紙をルーツにした製品を世界に発信する企業が集まる土佐市を訪ねた。
受け継がれる仁淀川の紙づくり 世界の日常に広がる

古くから紙の産地として発展してきた仁淀川流域。その中で今回訪ねたのは、海外に向けた製品も手がける土佐市の企業たち。
紙づくりに欠かせない清らかな「伏流水」と、長年培われてきた伝統技術を土台に、今も製紙業者たちは新しいものづくりに挑んでいる。
職人の知恵や地域の生活文化を取り入れ、使う人の日常に寄り添うことが特徴で、だからこそ、地域や国境を越えて世界中で愛用されている製品も多い。土佐の紙づくりは、今も力強く未来へ受け継がれている。
土佐和紙のワザがマスクに!

シートマスク
●三昭(さんしょう)紙業株式会社(土佐市)
シートマスクが今ほど知られていなかった約25年前から、多くの企業のOEM(※)を手がけてきた、土佐市の「三昭紙業」。
マスクの原料となる「不織布」を自社で製造できる国内でも数少ないメーカーだが、さらに土佐和紙の紙漉き技術を応用することで、シートを難度の高い三層構造に。
美容液をたっぷりと抱え込む「液持ちの良さ」を実現している。地元に受け継がれた技と高い技術力が詰まったシートマスクは、国内外で高い評価を集めている。
(※)他社に製造を依頼し、自社ブランドとして販売する仕組みや製品のこと。
風情ある、和紙のおもてなし

トイレットペーパー
●ハヤシ商事株式会社(土佐市)
「大手にはできないものづくり」を掲げ、多彩な紙製品を手がけてきた「ハヤシ商事」。中でも土佐和紙の伝統技法による「すかし模様」入りのトイレットペーパーは、昭和45年の大阪万博で好評を得て商品化されたロングセラー。
国内では百貨店や料亭、海外では家庭用として愛好家に親しまれている。印刷では出せない独特の風情が魅力で、「刺さる人には刺さるんです」と坂本社長。長年使い続ける熱心なファンも多い。
主な行き先
・中国
・ベトナム
・タイ ほか
土佐和紙の思いものせた包み紙

包装材
●株式会社モリサ(土佐市)
「一枚の紙から生まれる新しい可能性」に挑戦している、土佐市の「モリサ」では、約10年前に始めたSNS発信をきっかけに、海外からの注文が少しずつ増え、3年前から2回フランスの世界的なインテリア見本市「メゾン・エ・オブジェ」にも出展。
中でも土佐和紙の「落水紙(※)」を独自に仕上げた和紙は、包装紙はもちろん、海外のホテルやアーティストからも注目される存在に。
「土佐で育まれた技術の物語を、大切につないでいきたい」と意気込む。
(※)漉く途中で水を落として模様を浮かび上がらせる特殊な和紙。
主な行き先
・フランス
・台湾
・カナダ ほか

①三昭紙業株式会社(土佐市)
原料栽培から開発まで、すべて自社グループで

「三昭紙業」では、グループ会社の「三和製紙」と協力しながら商品開発・製造を行い一貫した体制を築いていることが大きな強みだ。
また、土佐和紙の原料「楮(こうぞ)」を後世へつないでいくため、グループ会社の「クリーンアグリ」では、楮の施設栽培を行っている。
栽培施設は三昭紙業のすぐ近くにあり、収穫された楮は、蒸し・皮はぎ・へぐり(※)などの工程を経て、不織布の原料へと姿を変えていく。こうして、素材づくりから製品化まで一体で進める仕組みが、質の高いものづくりを支えている。
(※)樹皮の一番外側の黒い表皮を、専用の刃物で削り取る作業
②ハヤシ商事株式会社(土佐市)
小学生も驚く、ハヤシ商事の「長い歴史」

昭和38年に始まったと言われる日本のキャラクター・ライセンス・ビジネス。「ハヤシ商事」では、先代社長がその可能性にいち早く着目し、第1号商品を昭和39年に発売。
以来、主力のポケットティッシュをはじめ、さまざまなキャラクターをあしらった紙製品を手がけてきた。
工場見学に訪れた小学生にこの歴史を紹介すると、自分が持っていたポケットティッシュに「ハヤシ商事」の名前を見つけ、「ほんとや!名前が書いちゅう!」と驚く姿が見られることもあるという。
③株式会社モリサ(土佐市)
和紙×発想力が生む、新たな紙製品の世界

落水和紙などの紗紙(しゃし・さし)は、1000年前の平安時代から続く和紙の一種。「モリサ」では、この伝統技術と加工方法を生かし、多彩な紙製品を開発している。
商談ルームには袋や箱、ラベルなどが並び、思わずワクワクするほど。「企画から製造まで一貫して行っているので、新商品づくりの際には細かな調整にも柔軟に対応できるんです」と話す森澤さん。
長い歴史に裏打ちされた技と、自由な発想力。その両輪で、モリサの紙づくりは今も進化を続けている。





