となり合う昭和の名店
「競合ではなく共存」 ともに時代を生き抜いてきた
昭和の名店 となり合う
「土佐の台所」とも呼ばれてきた、高知市の 大橋通り西詰めに並ぶ、2つの老舗喫茶店。 県内でも特に人通りが多い繁華街で隣同士、 昭和からお店を営み続ける両店に、 それぞれの思いを聞いた。
喫茶全盛の昭和から今へ 帯屋町に残る二つの名店

昭和の中頃、高知の街に喫茶店が次々と誕生していた時代。帯屋町に「喫茶 現代」(のちに「メフィストフェレス」に改称。「現代企業社」運営)がオープンし、数年後にはその南隣で「SPOON」が喫茶営業を始めた。
当時、この界隈には「泉」「ローズ」「ロロ」といった喫茶店が立ち並び、商店街の映画館「日活モデル劇場」や「大劇」の周りにも多くの喫茶店があり、街はにぎわいに包まれていた。
しかし時代は移り変わる。自家用車の普及で人々の流れは郊外へと移り、50年代には缶コーヒーやホット飲料の自販機が登場。その後はコンビニの展開やコーヒーチェーンの台頭もあり、かつて高知市内で950軒以上、商店街周辺だけでも300軒ほどあったといわれる喫茶店も、時代の流れとともに減少していった。
近年ではコロナ禍や物価高、人手不足が追い打ちをかけ、喫茶店にとって厳しい時代が続いている。
そんな中でも独自のスタイルを貫き、今もなお多くの人を惹きつけるのが「メフィストフェレス」と「SPOON」だ。
世代を超え、感性を重ねて 隣り合う喫茶店が紡ぐ時間
SPOON 昭和46年創業
前者を運営する「現代企業社」は、美術作家である大西清澄(きよずみ)さんが創業し、県内で喫茶店やレストランを展開している。アートな空間づくりを大切にし、その雰囲気や居心地の良さから多くの人が足を運ぶ。
一方「SPOON」は、中田麻紗子さんの祖父が営んだ「大代(おおだい)パン」を原点に、母・節子(せつこ)さんが喫茶営業を始め、そして麻紗子さんへと世代を超えて受け継がれてきた。家族の手で守られ続けてきた、喫茶らしい温もりが常連客に親しまれている。
外観や空間づくり、音楽やアートを大切にする姿勢など、どこか共鳴する両店。しかしそれは互いに意識した結果ではなく、時代の移り変わりの中で挑戦を重ねた末にたどり着いた自然な形だ。「うちは大きな背中にそっと寄り添っている感じですね」と麻紗子さんは笑う。
大西さんは「昭和の名店はいろいろあったけど、パワーアップして令和でも頑張っている。それがたまたま隣り同士だったということだと思います」と語ってくれた。
隣同士でどう違う? それぞれのアサヒルバン
芸術を愛する 文化交流の場
21時まで開いており、夜喫茶づかいもできるメフィストフェレスだが、2階は大きなスクリーンに音響設備を整えたミニ劇場、3階にはグランドピアノまで備えたイベントスペースも構えており、映画の上映会や音楽発表の場としても活用されている。
「かつて高知の市街地では映画館の周りに喫茶店が増えていった」と言われているが、ここでは喫茶と劇場が同じ場所にあり、芸術文化の発展の地として、高知の文化を支えている。
朝から夕方まで フル回転で!
SPOONでは、早朝から常連さんがいつものモーニングを味わいに、ランチ時は2階の奥の席まで埋まり、昼下がりになると、プリンやパフェなどのスイーツを求める若者の姿が。さらに週末には、開店待ちの列ができることもあるそうで、「朝早くから高知観光をされている方をおもてなししなくては」と張り切るのだとか。
休む間もなく営業した後は「夜はメフィストさん、お願いしますという気持ちです」と微笑んでくれた。