
真夜中に響く異音 その正体やいかに…?
「孕(はらみ)のジャン」とは、高知市浦戸湾に伝わる怪異で、夜の静けさの中、不意に「ジャーン!」という異音が響く現象のこと。夜釣りをしていた漁夫たちは、この音に遭遇すると、それまで順調に釣れていた魚が釣れなくなり、仕方なく釣り竿を納めて帰ったという。現象が起こるのは、高知市の南側に広がる浦戸湾の中でもぎゅっと狭くくびれた場所の辺りで、ここは古くから孕門あるいは渡合(とあい)と呼ばれる。主に草木も眠る真夜中に発生すると伝えられ、その音は遠くで小銃(しょうじゅう※)を撃つように響いたといわれている。
高知ゆかりの物理学者・随筆家、寺田寅彦は随筆「怪異考」(昭和2年)でこの現象にふれ、南海トラフ沿いで発生した宝永地震(1707年)や安政南海地震(1854年)の時、この地方に地殻の特殊な歪みが生じたために地鳴りが発生し、それが「孕のジャン」だったのではないかと仮説を立てている。
昔は「孕のジャン」を体験した人は多かった。その正体は自然現象なのか、何かを阻むものなのか… 今も謎に包まれている。
(※)銃の分類の一つ。兵士一人で携帯して使用できる小型の軍用火器の総称
参考文献:土佐伝説全集(津村久茂/著)、高知県の不思議事典(谷 是/編)






