作る人、伝える人、つなぐ人、遺す人… ここ高知で、そんな仕事や活動をしている人と その人がリスペクトする人にスポットを当て 2人の関係性、双方の思い、そしてこれからのことなど 胸に秘めたる熱い思いをひもといていく
師匠から技を継ぎながら 魅力を伝えられる左官に
県内で産出されている石灰を原料にした「土佐漆喰(とさしっくい)」。「幼い頃は父の仕事に興味がなく、兄弟の中でも一番手伝いをしなかったんです」と話す望立さんは、土佐漆喰彫刻を継承する父、勉さんの下で左官業に就いて2年目。今は、高知市一宮(いっく)にある国の重要文化財「旧関川家住宅」で、勉さんから技や作法を 教わりながら、全4棟の修繕作業に勤(いそ)しんでいる。「漆喰を塗る作業が楽しい」一方で、「一見簡単そうに見えても、少しの力加減で跡がついてしまうので均一に塗るのはとても難しい」と言う。「いつか父のようにきれいに塗れるようになり、頼りにされる左官になりたいです」と話す。また、天候により作業ができない日には、左官の仕事や土佐漆喰をより多くの人に知ってもらい興味を持ってもらうため、会社のホームページを制作している。「左官の後継者不足により、漆喰を作る業者も減りつつあります。伝統的な土佐漆喰を残していくために、もっと興味を持つ人が増えてくれたら」との思いを胸に、今日も技を磨いている。
下地を塗り終わったところに、漆喰をかまぼこ状に塗っていき、なまこ壁(※)を作る。塗った直後は茶色いが、1年ほどかけてだんだん白くなる。 ※壁に四角い平瓦(ひらがわら)を張り、その目地にそって漆喰を盛り上げて塗った壁のこと
「自分にとっては一定期間の現場でも、施主様にとっては一生のものになる」と教わったことを肝に銘じて慎重に。
土佐漆喰の世界で 自分なりの道を見つけてほしい
「自然の材料だからこそ少しの温度や湿度によって状態が変わるため、どの現場も初めての気持ちで挑んでいます」と話すのは、望立さんの父であり師匠でもある勉さん。長い経験の中でも、今手がけている「旧関川家住宅」のような土佐漆喰以外の代替がきかない重要文化財の修復作業は初めてといい、「残すべき建物を守る仕事に、息子と共に携われることを光栄に思います」と笑顔で話す。そんな勉さんが、中学生の頃祖父から教わったのがきっかけで作り始めたのが、土佐漆喰彫刻の龍。これまで自分が楽しくて大小さまざまな龍を作ってきたが、今は「自分が作る龍を見て、土佐漆喰に興味を持ってくれる人が増え、それが息子の手助けになれば」という思いで手がけている。そして「今後はより立体的で、躍動感のある龍を作りたい」と話す。自身が土佐漆喰彫刻の龍に辿り着いたように、望立さんにも自分にしかできない方法で活躍してくれることを期待しているという。「息子には、漆喰の面白さや魅力を、より多くの人に広めていってもらえたら嬉しいです」。
勉さんが手がけた、土佐漆喰の強度を活かした立体彫刻。得意の龍は今にも動きそうなほどリアル。
お互いに得意不得意を補い合い、家でも現場でも一緒にいる2人。土佐漆喰の魅力を伝えたい思いは同じ。