Posted on 2015.03.24

伝説探訪 Vol.6

お酒の女神様

お神酒(みき)に振る舞い酒と、神事にお酒はつきもの。
高知市・朝峯神社の神祭は、酒の瓶が町を練り歩く。

高知県の酒造りの神様を祀る朝峯神社の秋祭りで練り歩く頂女郎

「飲みすぎは、ダメよー、ダメダメ!」「エレキテル連合には負けないわよ」と頂女郎の2人。


朝峯神社の秋祭りで御旅所に向かう一行

 オンビキゾー、ホイホイ—。青空の下、法被姿の男性が茶色い瓶を引き、御神輿(おみこし)を先導する。木花開耶姫命(このはなのさくひめ)を祭神とする高知市介良(けら)の朝峯神社は、毎年十月の第三日曜に※おなばれの日を迎える。
 祭の世話人、行子(ぎょうじ)、神輿担ぎ、棒打ちなど50人を超す祭りの一団は、住宅街を歩いて御旅所(おたびしょ)の王子神社に向かう。途中、年寄りや子どもが列に加わり、にぎやかさが増していく。  
 御旅所に辿りつくと、神様と一団は足を休める。瓶の蓋が取られ、「一夜酒」の甘い香りがふわっと漂った。宮司の野村尊應さん(56)は、「オンビキゾーという掛け声は、酒を飲んだオンビキを追い払う声のように聞こえませんか? この神様は南国市の瓶岩川から移ってきたと言われ、良い酒が造れるようにと酒造関係者がお参りしたり、ご神体から湧き出る水を汲みに来るがです」。


朝峯神社の秋祭りで額に八の字を書いてもらう太刀踊りの踊り子

大人も子どもも額に末広がりの「八」の字。これをもらえば風邪をひかない、無病息災の印。

 ほろ酔いの祭りの一団は、ゆっくりと朝峯神社に引き返す。突如、「ギャァー!」と子どもの泣き叫ぶ声が耳をついた。真っ白なおしろいを塗りたくった「頂女郎(いたじょう)」が現れ、若い母親に抱かれた赤ん坊の額におしろいを塗る。天狗の面を被った「ハナ面」も近寄り頭をなでると、赤ん坊はさらにワンワン泣き声をあげた。  
 日が傾き、一団は朝峯神社へ続く赤い橋のたもとへ。カン、カン、カンと樫の木の高い音を鳴らして棒打ちが踊り、神社へ帰る神を引き留めるかのよう、御神輿はより一層激しく揺さぶられる。ハナ面は着物をはだけて全力疾走で子どもを追わえる。が、鼻緒が切れたのか、派手にすっころんでしまった。
 年に一度、人々と神様が触れ合う日。町は老若男女の笑い声に包まれていた。


朝峯神社の神祭に醸された一夜酒

祭りの前日、餅米のおかゆに米麹を混ぜ、柄杓に一杯の神池の水を加えると、ふつふつと発酵が始まる。一夜寝かせて、祭り当日に振る舞う。


朝峯神社の神祭で子どもに人気の天狗

祭りの常連の小学生は「ねえ、面をとってみいや」とハナ面を取り囲む。 それを見た年寄りが「おんしゃあ、追っかけがおるが」とからかう。


朝峯神社の神祭のお神輿

木花開耶姫は、古事記に登場する神で、安産や子宝の神としても知られている。


瓶岩川の左岸近くに、美しい女の神様・木花開耶姫(このはなのさくひめ)が住んでいた。この神様はお酒が大変好きで、川の水をくんで、広口の水瓶「ハンド」で酒を造っていた。ところが、お酒ができて香りが漂いはじめると、ハンドがからっぽになっている。調べてみると、川の右岸に大きなクツヒキガエル(オンビキ)が住んでいて、酒ができるのを待ちきれず、全部飲んでしまっていた。怒った女の神様は、ハンドを伏せて引っ越してしまった。(参考:南国市史)


高知県立歴史民俗資料館 梅野光興さん
 赤い着物に白い顔の頂女郎(いたじょう)はインパクトがありますが、本来の主役は行子(ぎょうじ)と呼ばれる2人の子ども。かつて行子は神がかりする大事な役でした。顔に白粉を塗られ八の字の眉を描かれ、正坐させられると眠り始めます。これが神がかった印です。行子はおなばれに加わり、儀式が終わると顔を洗い、目を覚まし、神上げとなります。人に神を下ろすとは神秘的ですが、明治時代の初めには高知平野のあちこちで行子が出る秋祭りが行なわれていました。現在、介良で神がかりの儀式はありませんが、須崎市鳴無(おとなし)神社の秋祭りでは今も古式の行子習俗が見られます。



※おなばれ=神祭で御神輿を担いで地区を回ることや、その行列のこと。
海で神輿を洗う風習の「御灘晴れ」や「御縄張り」など、いくつかの語源が推測されている。

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