Posted on 2014.06.24

家業を継いだあの人 せがれ No.7

高村火薬店営業部長 高村俊寛さん夏の夜空を演出する

浴衣着て、ふらりと近所の夏祭り。
間近で打ち上がる花火は迫力満点。
花火製造業が一軒もない高知県で、地域の花火大会を支える人がいる。


 「8時ちょうどをお知らせします」。トトトトト、パンパンパンパンパン。時報のアナウンスに合わせて花火が夜空を彩り、歓声と拍手が巻き起こる。「やっぱり、えいねゃ」。父が打ち上げる花火を見上げ、幼心に火がついた。  
 高村俊寛さん(35)は、かつて鏡川まつりの時報花火を担っていた高村火薬店の五代目。産業火薬、銃砲、花火の三本柱で、創業116年目を迎える。  
 高知県は「土佐」と呼ばれていた時代から、良質な石灰の産地。石灰産業の発展と共に、採掘用のダイナマイトを仕入れて現場に運ぶ火薬店が県内各地に生まれた。また、高知県は北海道、長野県に次いで猟友会の会員数が全国3位。銃砲と銃弾の販売、保管やメンテナンスなどのアフターサービスも火薬店が担ってきた。
 花火の打ち上げが業務に加わったのは、戦後だった。高度経済成長に伴って町に人が増え、お祭りも大きく派手になっていった。町内会で協賛を集め、夏祭りに花をそえる。「地区単位の花火大会を引き受けはじめ、今も300〜500発の花火大会が最も得意」。使う玉が小さくても、観客席までの距離が近く、迫力を出せる。  全国的に、花火は製造業者が打ち上げを担うことが多い。数千発規模の花火大会は県外の煙火製造業者に頼らざるを得ないが、県内でひと夏に打ち上げられる花火の約9割は数百発の花火大会。その多くは地域の火薬店が担っている。「花火は季節も ので、売り上げのごく一部。でも、うちの大事な柱」。

マニアックな性格


 高村さんは、子どもの頃から機械いじりが好きだった。「バンドやろうぜって誘われたら普通はギターとかベース買うがですけど、僕は録音機材のMTRを買うたがです」。高校3年間は放送部員。「これからはMDの時代やき」。先生を説得して、県内高校で初めてMDデッキを手に入れ、自由自在に音楽を切ってつなぐDJプレイにはまった。体育祭が近づくと、応援合戦の曲を編集できると評判が立ち、デッキの前で腕を振るった。  
 小学生の時に路面電車で通学して以来、乗り物オタクの自称・鉄っちゃんでもある。東京の大学に進学し、交通政策のゼミに入った。飛行機や電車の乗継の経路を考えたり、バス会社に利便性のいい路線を提案したり。「個人的な趣味やったのに、世の中の役に立つがや……!」。目から鱗が落ちた。

絶やせない仕事


 大学の夏休みは毎年帰省して花火を手伝った。現場でベテランの従業員についているにも関わらず「俊寛が花火やりよったらヒヤヒヤする」と母。かつて打ち上げ中に大やけどをした父は「無理に継がんでえい」。一度は外の世界を見ようと、まわりの友達と同じように就職活動をした。  
 高知県内の会社に就職し四万十市で家庭用品の営業をしていた2006年、高知自動車道の延伸が決まった。急峻な高知の山に道を通すには、何本もトンネルを掘る必要がある。火薬で山を崩すため、工事を落札した土木会社から火薬の見積り依頼が来る。受注が決まれば現場に合った火薬をメーカーから仕入れ、工事中は毎日、火薬を現場に運ばなければならない。  
 父は頻繁に土木会社に電話したり顔を出したりして、年間を通して受注が途切れないように気を配っている。「火薬は売ったら終わりやない。余った火薬を回収したり、管理する責任がある。もしも親父が倒れたら」。跡継ぎ不在で廃業する同業者もいるが、自分は家業を守りたい。
 2007年、高村火薬店に入社した。  
 梅雨が明けると夏本番。毎週末、ピークのお盆は一日2〜3か所で花火を打ち上げる。日が高いうちから打ち上げ用の筒を設置し、煙火と電気点火装置をセットする。作業手順を間違えると、花火はその場で爆発する。「直径9㎝の玉でさえ当たり所が悪かったら、死ぬ」。みんなが遊んでいる時に、危険にさらされて、汗だくで……。しんどい思いも、打ち上げ後の歓声に吹き飛ばされる。  
 「今年もよかったで!」。帰り際に花火を見ていたおんちゃんが声をかけてくれる。中には「川の水面をもっと活かしてや」という厳しい意見も。「そうやって花火を見てくれゆう。来年はもっと考えんといかんねゃ」。顔が見える距離だからこそ、よくしていこうと素直に思える。

もっと楽しませたい


 「鏡川で花火を上げたい」。2013年、高知青年会議所から60周年を記念したイベントの相談があった。しかし提示された予算では10分足らずで終わってしまう。鏡川の花火といえば、よさこい祭りの前夜祭。約2時間かけて4000発を打ち上げる。「こんなが、よさこい花火の小さい版。完全に負け」。  
 その時、付き合いのある県外の花火業者の言葉を思い出した。「日本に2台しかないフルカラーレーザー照射機を買うたけど、高知でやってみん?」。ここ数年、全国の花火大会に登場している「ミュージック花火」。音楽のリズムに合わせて、花火が上がり、レーザー光線でオーロラなどの模様を空に映し出す。単色のレーザー機が主流の今、高知で初めてフルカラー機を使って、しかも同じ予算で20分以上のショーができる。「どうせやるなら、抜きん出たことやりましょう」。  
 高知ロケの映画やドラマの音楽を選び、サビからサビへつなぐ。「最初はリズムに合わせて、ここでひまわりの花火。煙がたまったらレーザーを照らす」。当日の天気は晴れ。打ち上げ、照射、音響の3か所でストップウォッチを握り、「せーの」の合図で高知初の花火のショーがはじまった。  
 次回は、ライブ演奏に合わせて花火を上げて──。満足した主催者は、よりハードルの高い要求をしてきた。「近くても安全で、安くても見ごたえのあるものを」。花火を楽しみにする人々の声を頼りに、俊寛さんは工夫を凝らして夜空を彩っている。



※〜ねゃ=〜ねぇ。「にゃあ」と聞こえることもある。男性が使うことが多い。
※〜がや=〜なんだ。高知の人は男女問わず「が」を多用する。

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