Posted on 2018.03.24

特集

プラスで挑む!

目の前にあるにもかかわらず、見捨てられているものがある。
そこからなにかを拾い出し、プラス発想を加えることで、新たな価値が生まれている。

【山椒+高齢者】

産地をつくる

日本全国どこにでも生えている山椒(さんしょう)の木。
木の芽や青い実は、季節物として高知の街路市にもよく並ぶ。
越知町は20年ほど前にこの山椒に着目し、畑に植え、現在約65ヘクタール。
高齢化を抱えつつ全国2位の産地になった。

 

お金のなる木

 深いブルーとグリーンで多くの人を魅了する仁淀川。その中流域に位置する越知町に、今春、キャンプフィールドがオープンする。その川沿いの畑や山の斜面を見渡すと、山も「グリーン」に染まっている。  
 越知町黒瀬地区の片岡久一郎さん(71)は7アールの畑に300本近くの山椒の木を植えている。「昔から山へ行けば自生の山椒があり、木の芽を採って、すしに添えた。けんど、※バラがあるもんで実を採ってまで食べようと思わん。これがお金になるとは」。  
 目の前の仁淀川が氾濫し、水田が浸かったこともあったため、片岡さんは自家消費用の稲を作る田んぼの他は、ショウガを栽培する人に畑を貸していた。町内で山椒栽培が始まりだした頃から、知り合いの勧めで畑に山椒の木を植え、徐々に増やしていった。  
 5月初旬、山椒の青い実がたわわに実る。多い時には20人以上を雇い、実が日に焼けて茶色くならないよう2時間おきに収穫した実を量って集め、箱詰めする。給料は日当ではなく歩合制。「年寄りも女性も力を発揮しやすいし、努力した分だけお金になる」。夕方から夜9時まで組合へ出荷し、一晩冷蔵庫で寝かせて市場へ運ぶ。7〜8年目には、5月の青実と6〜7月の乾燥実を合わせて年間1トンを出荷した。15年ほどすると収穫量が落ちてきたため、接ぎ木して若木を増やし、去年は青実を500〜600㎏ほど出荷。「一時より少のうなったけど、孫への小遣いばぁにはなる」。年金生活には貴重な収入源となっている。

【ミニ土佐弁講座】※バラ:トゲ

秘訣は軽さ


山椒を栽培する片岡久一郎さん。4月頃から芽が出始め、5月初旬には青実がなる。

 かつて越知町では紙の原料となる楮(こうぞ)や三椏(みつまた)の栽培がおこなわれ、その後、ピーマンやショウガの栽培、そして薬用作物を作るグループもでてきて、農家の多くは年間を通して多品目を栽培していた。しかし、町の人口は昭和30年頃の1万3千人をピークに減少し続け、平成に入ると8千人を切り、高齢化率は3割を超えた。
 町の助役だった片岡正博さん(71)の元には、「毎年の作付けがしんどい」「もう重いもんは運べん」「けんど年金だけでは心許(もと)ない」と農家の声が届く。「10年、20年後、もっと大変になる。なにか手を打たんといかん」。一度植えたら何年も収穫できる永年作物で、高齢者でも作れるものはないだろうか……。様々な作物を探す中で、県内の山間部でよく生産されるユズや文旦などと同じ柑橘(かんきつ)類の中でも、ごく軽い山椒に目星をつけた。  
 まっ先に試験栽培を始めた山中登雄さん(72)を組合長に、1999年に越知町山椒組合を設立。国内最大の産地である和歌山県に比べて、日照時間が長く降水量もやや多いためか、数日早く青実を出荷でき、初物が歓迎される市場では高値がついた。佃煮(つくだに)の原料として重宝され、初物は一箱およそ500gが2千円。園芸連を通じて、大阪、京都などの市場へ出荷が始まった。しかし、青実の県外ものが出揃う頃には当初の半値以下と価格が急降下してしまう。新しい販路を求め、香辛料や漢方の材料を取り扱う問屋を探して直談判したところ、「管理がよく品質が高い」と関心を持ってくれ、6月以降は乾燥実に切り替え奈良と大阪の問屋に卸すようになった。毎年、市場や問屋に足を運んで意見を採り入れ改善を繰り返し、品質を保つため※トレーサビリティも導入した。  
 現在、組合には33人が参加し、約10ヘクタールに8千本を栽培し、年に青実を10〜15トン、乾燥実は7〜8トン出荷する。組合員から、「農閑期の収入になって助かる」「ちっとでも体を動かしたら元気でおれる」と声が届くようになった。

※トレーサビリティ:栽培から加工や流通などの過程を明確にし、食品の安全を確保する仕組み。


山椒の青実の収穫風景。


広がる山椒栽培


漢方の原料となる山椒の乾燥実。

 町内で薬用作物を生産し漢方製薬会社に納品しているヒューマンライフ土佐は、1985年からミシマサイコなどの生薬栽培をおこない、枳実(きじつ)(ダイダイ)など新しい生薬の栽培に取り組んできた。1999年、漢方の事故報道による業績悪化の煽(あお)りを受け、ミシマサイコの作付面積が減反となった。ちょうどその頃、町内で栽培が盛んになっていた山椒に目を向けた。
 山椒は、腸管収縮、腸管血流増加、血圧降下作用などがあり、腹の冷えや腹痛、虫下しとしても用いられ、大建中湯(だいけんちゅうとう)という漢方薬に使われる。製薬会社と山椒の契約栽培を結び、取り引きが始まった。今も、越知町内の農家150人ほどが加入し漢方原料となる山椒を栽培し、年間20トン以上の乾燥実を出荷している。

山椒商品、続々と


越知町山椒組合が製造する粉山椒。

 食用山椒の栽培に道をつけた山中登雄さんは独立し、今は家族で栽培、加工し、粉山椒や塩漬け、香辛料などを高知県内の土産物売り場に並べ、人気を呼んでいる。
 「うちはグリーンで走っていこう!」。組合長を引き継いだ片岡正博さんは、グリーンにこだわった加工に着手した。完熟して茶色くなった山椒に比べて、6月末から7月初旬の実が青いうちに乾燥させて加工することで、鮮やかなグリーンのパウダーができる。さわやかな清涼感とぴりりと痺(しび)れる山椒の刺激がうけて、四万十町のうなぎ養殖会社との取り引きが決まった。


山中登雄さんの越知町仁淀川山椒企業組合が製造する山椒商品(左の4種類)と、 地域おこし協力隊が製造する焼肉のタレ(限定品)。おち駅などで販売している。

 「目の覚めるような緑色に、香りも独特。しかも、お肉に抜群に合う」。20代の越知町地域おこし協力隊員は、山椒を一口食べて可能性を感じた。町内にオープンするキャンプ場に町外から多くの利用客が来ることを想定し、山椒を知ってもらおうと、焼き肉のたれやトマトソースなど、加工品の試作に取りかかっている。
 高齢化率45%を越えた越知町。昔から山にあった山椒に目をつけ、高齢化対策をプラスすることで、新たな産地に育っている。

 

【野菜+牧野博士】

在来種を商品に

 高知市潮江で葉物野菜のハウス栽培や販売を手掛ける熊澤秀治さん(60)は、長年、在来種を調べてきた。「ナスやキュウリなんかは農家の数だけ種類がある。全てがおいしく育つわけではないし、ばらつきがあって、流通できるものを探すのは至難の業」。熊澤さんの活動と思いが伝わり、牧野博士に師事した竹田功さんが収集し保存してきた50種ほどの種がその子孫から届く。さっそく潮江菜(うしおえな)の種を蒔き、育ったものを食べてみた。「色んな野菜の味がする。加熱するとうまみが増し、だしも出る。このうまさは、選んで残されてきたからに違いない。農業のプロが育てれば、〝牧野ブランド〟として売り出せる」。山内家伝来大根や焼畑のカブなど他の種も蒔いたが、一人で作れる量は限られるため、様々な野菜栽培の技術を持った仲間に声をかけ、Team Makinoを立ち上げた。交配しないように種を残すことに加えて、普段から食べられる野菜にするには流通に乗る規格が必要と、10人ほどの農家が手分けして栽培している。


山内家伝来大根の栽培をおこなう高知市網川営農組合。

高知市のスーパーマーケット・エースワンの野菜コーナーに並ぶ潮江菜。サンプラザの一部店舗にも並んでいる。

 


 高知農業高校生活総合学科3年の石元理沙さん(18)たち5人の生徒は、Team Makinoが復活させた豆を栽培し商品化を目指す課題研究に取り組んだ。預かったのは、高知県内で古くから作られていた「唐人豆(とうじんまめ)」と「八升豆(はっしょうまめ)」の2種。唐人豆は沖の島で栽培されていたという落花生の一種で、夏の高温や台風で病気が発生し、栽培に苦戦した。江戸時代に土佐清水で採取された八升豆は、たくさん実をつけたが、サヤには細かい毛が生えていて堅く、収穫に手間がかかった。
 収穫した唐人豆は荒く挽いて食感を残し、八升豆はきなこにしてお菓子を試作した。シフォンケーキに混ぜてみたが、焼き上がりの見た目がイマイチで商品化にはほど遠い。クッキーとパウンドケーキに混ぜたところ、豆の味が強すぎるため豆の分量を何度も調整。試食で評判のよかったクッキーを2種類商品化することにした。高農ふれあい市で試食販売すると、「豆の味がすごい」「食べたことない味」など反応が返ってくる。さらに牧野博士が関係する豆だと説明すると、「へ〜!」と関心を持ち、買ってくれた。一方、味に敏感な子どもは、豆の風味が強すぎて渋い表情。「おいしく食べてもらわないと、種を残していくことは難しい。加工方法を改善していい商品になるよう、後輩達に引き継いでいきたい」。


Team Makinoから預かった八升豆。


唐人豆と八升豆のそれぞれのクッキーを商品にした。

 

【イタドリ+耕作放棄地】

雑草を栽培する


高知市鏡地区のイタドリ畑。

 「イタドリないろうか?」。2016年秋、高知市農林水産課の電話が鳴った。かけてきたのは高知県食品工業団地。高知県内で広く春の味覚として食べられ、わざわざ山奥まで採りに行く人もいるイタドリを商品化しようと画策していた。加嶋竜也さん(30)は、長くイタドリの栽培をおこなっている高知市鏡(かがみ)地区のことを調べた。
 1970年頃に減反政策の対象になった水田に栽培する人が現れ、平成に入った頃には耕作放棄地を活用しようと栽培研究が始まった。徐々に栽培する人が増え、「しゃくしゃく漬」という商品も誕生した。イタドリ自体は全国どこにでも生えているが、産地と生産者を辿ることのできるトレーサビリティを兼ね備えているのは鏡地区だけ。食品工業団地に紹介したところ、「これは全国に売れる!」。鏡のイタドリを持って首都圏で開催された商談会に出展。馴染みのない県外のバイヤーに試食を勧めると「なにこれ?」と疑心暗鬼だったが、イタドリの写真を見せると「ん!?」と表情が変わり、口にすると「雑草がこんなにおいしいとは!」と意外性がウケて高評価。いきなり外食チェーンなどからトン単位の要望が複数届いた。


2017年2月、スーパーマーケット・トレードショーに出展したイタドリ加工品。

 加嶋さんは鏡地区でイタドリを栽培する川﨑文雄さん(66)を訪ねて詳しく話を聞いた。地区では自生しているイタドリの中から皮を剥(む)きやすく肉厚で歩留まりのいい「赤茎(あかけい)」という品種を選定し、株分け、さし根、地下茎の子株利用などの繁殖法や、肥料管理、※ガラ刈りなど栽培法の蓄積があり、傾斜地や小さい畑など耕作しにくい畑でも栽培できる。雑草なので農薬いらずで、家の目の前で栽培することで適期に収穫し出荷できる。


イタドリ普及のためにおこなわれたイタドリの根っこの掘り取り(左)と、畑に植えられたイタドリの苗(右)。(高知市鏡地区)。


 しかし、鏡地区の出荷は年間約4トン。加工品や街路市での販売などでほとんど行き先は決まっている。「こんな土地で育つなら、県内にいくらでも畑はある」。鏡地区の生産者と高知県、高知市、食品工業団地がタッグを組み、イタドリの苗の販売計画が立ち上がった。市場開拓のためイタドリ講習会を開催すると県内から170人が集まり、鏡地区の栽培や加工の方法をオープンにすることで、苗の購入希望は1万7千本にも上った。新規栽培に手をあげたのは、山間部のJAや、県が進める集落活動センター。どこも耕作放棄地を抱える一方、皮剥きや塩漬けなど下処理の経験のある高齢者が数えきれないくらいいる。
 一次加工したイタドリは、食品加工会社が待ち構える。40年以上、地区内だけでおこなわれてきたイタドリ栽培は全県へと広がり、さまざまな加工品として花開こうとしている。

※ガラ刈り:2月に芽を刈り、成長を促進すること。

 

【植物+防災】

野草を日常の中に

 春めいてきたある日、四万十川の河川敷。30人ほどの親子が脇目も振らず〝食べられる草〟を探している。採った野草と砕いたスナック菓子をビニール袋に入れて振り、簡単和(あ)え物に。またある日、小学校の出張教室でシロツメクサの花をてんぷらにすると、小学生が大喜び。「クローバーの花って食べれるがや」「サクサクしておいしい」。シソ科のカキドオシはパスタソースに、ツユクサの葉を摘んで玉子とじに、彩りにお花も添えると、おしゃれなランチに変身した。「野草はおいしいし、見た目もかわいい。一度見て、手で触れ、匂いをかいだら覚えられる。自然の様子や季節まで感じられる」。斉藤香織さん(44)は、子どもたちに語りかける。



カキドオシのパスタ。

 

 野菜ソムリエとして東京都で食育活動をしていた斉藤さんは、畑で野菜を育てようと2012年に四万十市へ移住した。畑を貸してくれた澤良木庄一さん(94)と畑仕事の合間におしゃべりしていると出てきた言葉が、〝防災植物〟。思い出せば、東日本大震災で被災して避難所生活を送る人の食事は偏りがちだったし、お年寄りが校庭に生えているものを煮炊きして食べていたという話を友人から聞いてもいた。「どこに住んでいても地震、台風、洪水で被災のリスクはある。もしもの時、食べられる植物はいっぱいある」。


澤良木さんと斉藤さんは防災の時に役立つ植物の基本をしっかり伝えて他の団体や人とコラボしたいという思いを込めて 「防災植物」を商標登録し、日本防災植物協会を設立。防災植物教室の開催や、リーダーの養成に取り組んでいる。

 澤良木さんと共に自然観察活動をしてきた仲間は植物の知識を提供し、斉藤さんは野草を採り入れるレシピを編み出していく。四万十野菜のパウダー商品を手掛けるLLPしまんとの稲田玲子さん(55)とコラボし、月に一度、防災植物と四万十野菜のカフェを開く。「いざという時、親しみのないものを急に食べられない」。揚げ物、和え物、パスタやピザなど、その時期に採れる野草を使った料理を創作し、普段の食事に野草を採り入れる提案をおこなっている。  さらに、斉藤さんは※土佐FBCで学び、自身の課題研究として12種類の野草の成分分析を実施。その結果、カキドオシやヨモギはポリフェノール含量が多く抗酸化活性も高いことがわかった。シロツメクサはビタミンCと鉄分の含量が豊富で植物由来の鉄分の吸収率が高く、夏のドクダミにはほうれん草の3.5倍以上のβカロテンが含まれているなど、あまり知られていない特性を掴むことができた。「カルシウムなどのミネラルやビタミンなどの栄養素を摂取できるし、食物繊維は糖の吸収をゆるやかにしてくれる。それぞれに栄養が豊富で、非常時ではなくても人の生活に役立たせることができるんです」。

※土佐FBC:高知大学が主催する地域における食品産業の振興に必要とされる中核人材を育成するプログラム



 

【ヒノキ+都会の目】

森の空気を共有する


 およそ9割が森林の仁淀川町。2014年に仁淀川町に移住した竹内太郎さん(42)は、焼畑をする会に参加し、池川木材工業会長の大原儀郎(ぎろう)さん(82)と知り合った。誘われて会社を訪ね、建材やスノコなどの日用品、木質ペレットの製造を見学していたところ、端材(はざい)を利用したヒノキオイルの蒸留機からオイルとは別に水が流れていて、ほのかにヒノキの香りがすることに気づいた。大原さんに聞くと、「下水(したみず)よ。オイルの15倍ばぁ出る」。何かに使えるかなと、少し譲ってもらい持ち帰った。


ヒノキチップに蒸気をあてて冷却すると、ヒノキの精油と蒸留水が出てくる。材料は県産ヒノキと地元の沢の水のみ。

 竹内さんが暮らす家は築100年を超える。古い家独特の匂いが気になり、市販の消臭スプレーを使っていたが、「周りの空気がきれいすぎて、香りが浮いてしまう」。そこで、もらったヒノキの蒸留水をシュッとかけてみると、匂いが薄れ、ヒノキの香りがさりげなく広がった。好みの柑橘系の精油を混ぜ、タオルや洋服などに吹きかけたりと、日常的に使うようになった。


お茶や野草にハーブを加えた摘み草ブレンドティー。「gingin」は、秋冬番茶、スイカズラ、レモングラスなどの味わいにショウガをピリッときかせたブレンド。

 次に目を向けたのが、自らが愛用するヒノキの蒸留水だった。イメージは朝靄けむる森の中。散歩をしていたら、みかんの花の香りがふわっと鼻をかすめる。「都会のタワーマンションでこれを体験できたら……」。  
 高知県立大学の協力を得て成分分析を実施。すると、※アンモニアと※トリメチルアミンの臭いを分解することがわかった。ユズや文旦など様々な柑橘系のオイルを試したが、香りのバランスを重視して、光毒性のないベルガモットのオイルを選んだ。原料は2つだけとし、よけいな物は混ぜないことにこだわった。「シュッシュで、どこでも森林浴。効果効能はもちろん、暮らしの中に今までになかった楽しみをつくりたい」。  
 2017年秋には、地域おこし協力隊を卒業した女性をスタッフとして迎え、フレーバーやパッケージを変えた商品など、次のアイデアを温めている。

※アンモニア:体臭やトイレ臭  ※トリメチルアミン:生ゴミやペット臭


左から社員の小原紀子さん、竹内尚実さん、竹内太郎さん。


「によどヒノキウォーター」は、ゆの森、オーベルジュ土佐山、COMO、マルニガーデン、ハマート薊野店などの他、インターネットでも販売している。http://tretre-niyodo.jp/

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