Posted on 2017.12.24

家業を継いだあの人 せがーる No.21

ミネ ヘアアンドメイク  吉田 恵理さん お嫁さんを つくる

人生において最も晴れやかな日それは結婚式。
胸をときめかせてその日を待ちわびる女性たちを
キラキラ輝く花嫁さんに変身させている。

せがーる ミネ ヘアアンドメイク  吉田 恵理さん

 


 「トレンドの波ウエーブがご希望ですね。ドレスのテイストに合わせて、ブーケはドライやプリザーブドにして、こんなヘッドアクセサリーはいかがですか?」。Instagramにアップした写真、これまで撮りためた写真をタブレットでパラパラめくりながら会話が弾む。ブライダルスタイリストの吉田恵理さん(36)は、まるで魔法をかけるかのように、花嫁さんをつくり出す。

ハレの日を飾る仕事


正月は3姉妹が和装でおめかし。右から、長女恵理さん(9歳)、2女早希さん(7歳)、3女汐里さん(5歳)。

 幼い頃、仕事をしている母を迎えに近所の写真屋さんを訪れた。古いストロボがパーンと音を立てて、ウェディングドレス姿のお嫁さんを照らしている。「まだ、チェンジがあるからちょっと待ってね」。次は華やかなドレスに合わせたヘアメイクを施す。恵理さんは、女性をお嫁さんに変身させる母の姿を今も鮮明に覚えている。
 1948年、恵理さんの祖母・峯子さんは四万十町窪川に「みね美粧院」を開いた。1963年まで国鉄の終点だった窪川は乗り換えの宿場町として賑わい、町内に美容室は20数軒ほどあった。峯子さんは日々のカットやパーマの仕事に加え、婚礼着付けなども引き受けていた。当時婚礼と言えば、3日3晩が当たり前。前夜祭があり、当日は新郎が新婦の家に迎えに行き門出(かどいで)をして、それから新郎宅で式と披露宴。翌日はご近所やお世話になった方たちとの仕舞い会。峯子さんは子どもを預けて、新郎新婦に付いて回り、お色直しやお世話をしていた。一人娘だった恵理さんの母・ひと美さんが店を継ぎ、結婚後は町内で和菓子店を営む夫とともに法人化し、サロンと婚礼の仕事を続けてきた。

 

器用でおしゃれな女の子

 恵理さんは、3姉妹の長女として生まれた。幼い頃から手先が器用で、保育園の先生には「はさみを使わせたら天下一品」と褒められた。小学生の時に英会話を習ったのをきっかけに、英語と海外の文化に興味を持った。「いつかは海外で暮らしたい」。憧れは年々膨らんだ。
 国際教養コースのある高知市内の高校に進学。街には窪川にはない流行の洋服を扱うお店が並び、同世代の子たちは思い思いの服を着て街へ繰り出している。片っ端からファッション誌を買ってペラペラめくると、ファッションへの興味が湧いてきた。「これ着てみたい!」と決めたら、頭からつま先まで抜かりなくそのファッションを貫く。ショップで気に入った服があると、観察して生地やパーツを買って自作したり、手持ちの服をリメイクしたり。友達の分も作っておそろいでキメて、街へ繰り出し写真を撮る。「まだ一部の人しか着ていない服やアイテムをさきがけて採り入れるのが好き。自由に自分を表現する感覚が最高に楽しくて」。ロリータ、ギャル、スケーター、アウトドア……、あらゆるジャンルのファッションを楽しみ、高校生活を満喫した。




左:約60年前、みね美粧院の前で。峯子さんと、ひと美さん。
中:披露宴は自宅でおこなっていた時代。照明が暗かったため、真っ白の白塗りメイク。日本髪のかつらは結い上げが大きい分、かんざしや装飾品も大きい。
右:昭和50年以降、会場を借りて披露宴をすることが多くなる。かつらは少し小振りな結い上げに、かんざし類も小振りに。メイクはピンクオークルの色味に変わる。

 

見えないレールを走る

 高校3年生の時、母の勧めで通信制の美容学校に入学した。テキストを使った自主学習とレポートと、年に数回のスクーリング。「同級生でそんな子は1人もいないし、遊びたいし」。渋々、カットや※ワインドのレッスンに通った。高校卒業後は、名古屋の短大で色彩などトータルデザインを学ぶ傍ら、スクーリングのために帰郷し、卒業とともに美容師の国家資格を取得した。  
 短大を卒業する間際、最短でスタイリストになれるという触れ込みのスクール兼サロンを母が見つけてきた。他にやりたいこともなく、就職して美容師の道へ。日中はシャンプーやブローなどサロンワークをした後、夜遅くまで美容課題と試験に備えてレッスンが続く。「私はこのまま美容師になるの?」。忙しい毎日にやりがいは見つけられず、疑問は膨らむばかり。22歳の時、サロンを辞めて窪川に戻った。  
 「もう美容師の仕事はしたくない」。母に宣言し、父が営む和菓子店の仕事を手伝った。店頭に立って、接客したり商品を包装したり。ちょうどその頃、母は高知市内の老舗旅館の婚礼の指定店になり、高知市に出店の計画を立てていた。これまで恵理さんの進路に口を挟まなかった父が声をかけてきた。「せっかく資格もあるし、やってみたら。自分で食べていけるなにかが見つかるかもよ」。やさしく背中を押してくれた。

※ワインド:パーマのロッドを巻くこと

 

スタイリストへの道

 母の店でサロンワークをするようになった。他のスタッフは母の婚礼の仕事に付いてアシスタントをしているのに、自分にできることはごくわずか。上司であり先生でもある母は、「挨拶しなさい!」「返事しなさい!」と厳しく注意すれども、恵理さんはマイペースで自由奔放。手を焼いた母は密かに作戦を練った。「早く一人前にするにはコンクールしかない」。
 初めて出場した留袖(とめそで)のコンクールの結果はボロボロで、母が習った先生のもとで特訓が始まった。週の半分以上は、朝から晩までレッスン漬け。何度も着付けを繰り返し、仕上がりや時間をチェックしてもらう。専門誌主催のメークアップコンクールに出場し、運良く上から2番目の成績を収めることができたが、恵理さんは「こんな賞いらない!」。次は県内の※中振袖(ちゅうぶりそで)着付のコンクールに出場。ほとんど休みなくレッスンに取り組んだのにも関わらず、入賞は叶わなかった。「もっと上を目指したい」。闘志に火が点いた。
 2008年、再度挑戦したところ優勝と知事賞を勝ち取った。高知県代表として初めて出場した全国大会でも入賞することができた。

※中振袖:成人式などに着る振袖

 

 

私の場所

 2010年、流行のゲストハウスウェディングの会場から「指定店にならないか」と声がかかった。恵理さんは二つ返事で引き受けた。
 初めてのお嫁さんは、美容師の女性だった。打ち合わせで選んだ衣装やイメージする写真を見て、その人の個性を掴(つか)む。小物合わせでは、実際に衣装を身につけ、ベールやアクセサリーを選び、再度打ち合わせをしてスタイルを決める。前撮りで実際にスタイリングをしながら、ヘアに合わせたヘッドドレス、お嫁さんの雰囲気や希望に合わせたメイク、ブーケや小物も提案すると、「お願いしてよかった」とにっこり。「希望をそのまま再現できる技術はあって当たり前。そこに何かプラスの提案をするのが私の仕事なんだ」。
 県外の婚礼では和装が少なくなっているが、高知はまだ和装を希望するお嫁さんが多い。「打掛(うちかけ)には伝統のある日本髪を残していきたい。地毛で結う技術はもちろん、左右対称に作られたカツラに合わせるメイクも気が抜けない」。
 結婚式当日は、とにかく時間との戦い。お支度の30分前には会場に入り、新郎新婦に加えて、列席の方の着付けやヘアメイクを施す。お色直しの時間は短く、チャペルから披露宴まで約20分。まるでF1ピットさながらに、ドレスから和装に着付け、ヘアメイクもチェンジ。その間、司会者との打ち合わせや、祝電の順番の申し送りなど、進行もフォローする。


恵理さんが手掛けたお嫁さんたち。 白無垢に伝統的な日本髪・文金高島田(ぶんきんたかしまだ)のかつらに角隠しを付けたお嫁さん。


和装にゆるふわの洋髪のお嫁さん(左)。オブジェのように大ぶりのヘッドアクセサリーを付けたお嫁さん(右)。

 

〝なりたい〟を叶える


お嫁さんの雰囲気やイメージに合わせたアクセサリーを提案し、その人らしいスタイルをつくる。

 「こんなイメージにできますか?」。黒や紫をベースとしたハードなスタイルを衣装に採り入れたいと、お嫁さんの強い希望が持ち込まれた。恵理さんは「そうきたか!」と感じつつ、「世界観があって、好きなスタイルを貫いている。彼女がステキに見えたんです」。好みの色やテイストを察知して、小物やメイクを提案。「こんなこと聞いてもらえると思ってなかった」と、お嫁さんは大満足だった。
 その後も、金髪に赤無垢、花魁(おいらん)風など、個性的なヘアメイクを希望するお嫁さんが現れると、よけいに「期待を超えたい」と気持ちが昂(たか)ぶる。「トータルにコーディネートできる」と評判が立ち、指名はどんどん増えていった。


恵理さんの呼びかけで、節目節目に家族写真を撮る。2女の早希さんはエステサロンを経営。3女汐里さんは、夫婦で父・米孝さんの和菓子店を手伝っている。

 2012年、母から美容室の代表を引き継いだ。その後、結婚、出産し、2人の子どもを育てながら現場に立つ。平日は打ち合わせや前撮り、週末や祝日は婚礼が重なり、スケジュール帳はどんどん黒く埋まっていく。時には、最後のチェンジを終えると先に会場を出ることもあり、スタッフに負担をかけてしまうことに後ろめたさを感じる。十分な気遣いができず反省することもある。支えてくれるスタッフや家族に感謝しつつ、お嫁さんに向き合っている。
 「その人の個性にあった提案をして満足してもらうとともに、スタイリングをする空間や時間を楽しんでもらえることもすごく大事。お色直しで戻ってこられた時に、〝ここが一番落ち着く〟とお嫁さんの表情が緩むとほっとする」。お嫁さんと並走しながら、その人の個性を発見し、際立たせ、人生の輝く瞬間をメイクアップしている。

あき

【とさぶしMAP】ミネ ヘアアンドメイク

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