Posted on 2015.09.24

伝説探訪 Vol.7

笹の普賢さま

高知と徳島の県境に位置する香美市物部の笹集落。
数人しか住まなくなった集落に一夜限りのディスコが現れ、人口は二十倍にも膨れあがる。

香美市のダンシング盆踊り、笹普賢の夏祭り

 旧暦6月23日にあたる8月7日。ヒグラシの声に誘われて笹集落へと車を走らせると、小さな提灯が見えてきた。車を降りると、猛暑日が続いたとは思えないほど、ひんやりした空気に包まれていた。
 境内に5mほどの竹が一本。薄暗くなると、一人、また一人と竹の周りに集まり輪になって踊り出す。右へ3歩、左へ3歩から始まる一連のステップは30秒足らずで、「はっさん」「ばちばち」などと呼ばれている。「お富さん」や「おどるポンポコリン」、どんな曲にも合う不思議なステップで、延々ループで踊り続ける。
 太夫の森安正芳さん(67)は幼少時代を振り返る。「今じゃあ、3軒しかない集落やけんど、笹は道が交わる場所やった。昔は阿波から、豊永からどっさり娘がやってきて、笹の嫁になったもんよ」。「ビューティフルサンデー」が流れると、くるりと回るアレンジを効かせてステップを踏む。「こりゃ回り千鳥という人もおる。人が混じって、踊りも音楽も変わっていった。普賢様を背負って逃げた和尚の墓もここにあるき、みんなぁで踊って鎮めるがよ」。
 夜の闇が深まり、ステップがこなれてくると、DJの森安健児さん(63)が古いカセットテープをセットする。「お酒飲ませてそのあとは〜」と男女を煽るような歌詞の「ウルトラCでやりましょう」や、バブル期のヒット曲「CHA_CHA_CHA」、「せられん、せられん言うたろう〜」という土佐弁のロックまで。勢い余った踊り子が竹をゆすると、夜露が降り落ち、歓喜の声があがる。ほとんど人が住まない山奥に、手を打つ音と男女の声がこだまする。
 どんな曲にも軽々とステップを踏む笹岡洋一さん(34)は、笹出身の父親に連れられ子どもの頃からこの夏祭りに通ってきた。「最近は大栃の湖水祭りが人気ですが、夏祭りといえば笹のお祭り。みんなで踊る一体感も、踊り終わった後の爽快感もたまりませんから」と言い残し、また踊りの輪の中へ戻っていった。


笹普賢の音源はカセットテープ

DJは年季の入ったカセットテープを操り、場を盛り上げる。


笹普賢のDJはテープの残量を確認する

「まだ半分ばぁテープが残っちゅう」と確認して、 踊りの輪に加わるDJ森安さん。


笹には七堂伽藍の立ち並んだ大きなお寺があったが、長宗我部元親が土佐の国を統一すると、「山奥にこんな大きなお寺があっては戦略上おもしろくない」と焼き払った。徳庵和尚は密かに本尊の普賢菩薩を背負って逃げたが、のちに再びこの地に帰り、もとのお寺のあとにお堂を建てた。(村のあれこれ/松本実)


とさぶし伝説探訪
高知県立歴史民俗資料館 梅野光興さん
今では秘境のような笹ですが、かつては宿屋や商店もあり、人や馬の通る交通の要所でした。自動車が無かった時代は山越えが近道だったのです。普賢堂の祭りもかつては大勢の人で賑わい、男女の出会いの場でもありました。物部町にはこのような山里の踊りが久保堂の岡、五王堂、黒代などに残っています。「お山のディスコ」として有名になった大栃の湖水祭は年々若者が増え続け、今年は1万人の来場者があったそうです。踊り方や歌は変わっても人々が集まり楽しむ祭りのスピリットはしっかり伝えられているのです。

 

 

【とさぶしMAP】笹普賢堂

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